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1.始まり

 もしも、地球の資源を使い果たしたら


 もしも、環境汚染が悪化したら


 もしも、核戦争をおこない荒廃した大地になったら


 もしも、その全てが発生してしまったら




 ◇◇◇




 人間の身勝手な行動により、大地は死に絶えた。

 至る所で地割れが起き、植物が育たず、岩石や礫に覆われた乾燥した大地となりいつも砂埃が舞っている。

 海は死海と呼ばれ、生物が住み着く事もできず、暗い影を落としたまま静かに蠢いている。

 空にはいつからか、濃く暗い灰色の靄が覆い、陽の光も月明かりも星の輝きも見る事ができなくなった。


 海も空も、その青さを見せることはなく、暗い世界の中、数を減らした人類は、ひっそりと生きていた。




 まだ、暗い靄が空を覆う前、資源が減少し出した頃、人類は植物の研究をするようになった。色々な物資を植物で賄おうとしたのだ。

 食べられる植物の研究や、水を蓄える植物は勿論の事、ライトの代わりになる光る花、テント状に育つ木、家具の形に育つ木など、生活に必要な全ての物を植物で賄おうという研究だった。研究は成功し、人々は植物だらけの生活を『プラントライフ』と呼び、新しくオシャレなライフスタイルとして人気となった。

 研究はエスカレートし、遂には『生き物との融合』にまで発展した。生きた動物の体を苗床に植物を育て、『永遠の命を持つ動く植物』を開発しようとした。結果、研究は一部成功した。永遠の命は無理だったが、はるかに丈夫で疲れ知らずな、人工知能を与えた犬や猫、馬の形をした動く植物が誕生したのだ。ただ、その研究は倫理的にどうなのか、抗議の声が上がった。そんな時に、地球の環境は一気に悪化してしまった。


 資源もなく、植物もあまり育たない荒野と化した世界になってしまったのだ。


 荒野と化していった地球で、植物は育たず、それを食べていた草食動物も、肉食動物も、徐々に数を減らしていった。人類は食べ物や飲み物に困窮する様になった。そこで一人の研究者が新たな植物を生み出した。


『植物を育てられる植物人間』


 人間と植物を融合させ、触れるだけで植物を成長させられる能力を持つ植物人間だ。人工知能を与え感情は与えず、ただ人間の命令を聞くだけの生き物。

 最初は遠い場所や危険な場所に食べ物を探しにいく為の兵士を作っていた。その際、一体だけこの奇跡の能力を持つ者が生まれたのだ。どうしてこの能力が身についたのかは最後までわからなかった。元となった人間の力なのか、神の悪戯なのかわからず、研究もおこなったが、この一体以外は能力を身につける者は生まれなかった。


 食べ物を探しに行く植物人間の兵士達は何体も外へと送り出されたが、誰一人として帰って来る者はいなかった。

 だからこそ、『植物を育てられる植物人間』を何体も誕生させようと考えたのだ。この研究には何人もの人間が犠牲となった。この研究で犠牲となった人間は、口減らしに捨てられた子供達だ。


 人々は、自分達の生活を守る為、一世帯子供は一人という取り決めをした。それ以上産まれた場合は、食糧難解消の「口減らし」を目的に、先に生まれた方か後に生まれた方、どちらかあぶれた子を稚児山と名付けた場所に捨てていった。この神の怒りに触れたような環境悪化を受け、無用な殺生をすると更に神の怒りを買うと考えた世論を受け、『稚児山での生活』という発想になった。人々は稚児山に『預ける』と言っているが、現実は捨てているのだ。研究者達はその捨てられた子を密かに研究所へと連れて行き人体実験を行なっていった。百人近い犠牲を払い人型の植物は何十体か成功した。

 その中で奇跡を呼ぶ植物人間が奇跡的に生まれたのだ。

 見た目は人間そのものだが、表情はなく言葉を発する事も無いその植物人間の事を『命樹めいき』と名付けた。15歳の女の子を元に産まれたその植物人間は、種や植物を握ると、その植物を急激に成長させる事ができた。種を握った瞬間に芽が生え始めるのだ。その力で沢山の植物を増やす事に成功した。命樹めいきは指示された場所へ行き、様々な植物を育てていった。人と融合させる事により、移動も簡単にでき色々な場所へと赴く事ができた。


 人体実験の研究に批判していた人々も、生活を安定してくれる命樹めいきの活躍を目の当たりにすると、全員が手のひらを返すように意見が変わっていった。

 安全な場所から、研究の材料とされるという人の不幸を見て「ああ、自分じゃなくて良かった」そう思うその優越感は人間として自然な心理なのかもしれない。


 永遠の命を持ち、眠る事も不要で感情を持たない命樹めいきを人々は酷使した。そんなある日、突如動かなくなった命樹めいきは、真っ青な大きな花の蕾に包まれ、長い眠りについてしまった。力を一定量使うと眠りに付くという事が、この時判明した。


 新たな命樹めいきを産み出す事もできず、唯一の命樹めいきはいつ目覚めるとも知れない眠りについてしまったのだ。

 研究者率いる一部上層部の判断により、新たなる命樹めいきの研究は諦め、次は『選ばれし者以外の人間を削除する』という研究をする事にした。

 街から追い出した人間を接種し栄養に変え、古くなった枝を地面に落とし大地へ栄養をあたえ、根からは地下水を生み出し大地を潤わせていく『食人植物』を産み出していった。その研究と並行して人型の植物人間が作られた。命樹めいきのように特殊な力は無いけれど『街から追い出された人間を死へ導く』という使命を植え付けられた、見た目は人間の少年そのものの植物。人工知能を与え言葉は喋るが感情は与えられなかったその植物人間は、上層部が不用と判断した人間を死に導くためだけに生み出された。上層部や研究者達には危害を加えないよう徹底させ、自分達の手は汚さずに点々と植えていった『食人植物』に獲物を与える者を作ったのだ。

 研究者達は、『死樹しき』と名付け、街の外へ放った。

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