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電脳の魂とは


彼女は何時もの口調で何時もの夢を語り出す。

「もしも、アンドロイドの感情を司るデータに約21gの質量を与えることが出来たら、きっとそれは人類の魂の証明に他ならないと思うの!」

「まぁたその話しかい?聞き飽きたよ

君の不可思議な夢物語は、だいたい冷静に考えてみなよ

只の電気信号や数字の羅列に質量を与えられる訳が無いだろう?」

僕も何時もの口調で呆れなからそう返すと彼女は。

「だからこそよ!だからこそ浪漫があって良いじゃない!不可能?上等よ!科学者は不可能を可能に変える、夢を叶えるお仕事よ♪」

と宣いだした

僕は更に呆れ返りこう反論する

「そもそも魂の領域は人類が、科学者が触れてはならない絶対の領域だ。只でさえそんなものに興味があるなんて上の人間に知られたらどうなるか解らないのに、君は手を出している。破滅は一人でやってよね」

僕が語気を少し荒げそう言うと

彼女はまるで駄々をこねる赤子の様に頬を膨らませ唇を魚のように尖らせ顔をプイッと背ける。

少し言い過ぎたかと彼女の方へ耳を傾けると

ぽつぽつとだってだって、だとか別に良いじゃない少しくらい、とかバレやしないわよだとか聞こえてくる。

どうやら心配は僕の杞憂だったようだ。

まぁ、彼女の事だから僕が止めたところで聞く耳を持つわけが無い。実際もう何度も止めているが効果は出ていない

ならば僕は彼女が越えてはならない線を越えないように一緒に歩こうと誓ったのいつの事だったか

おそらく彼女もあの日の約束は記憶の彼方だろう。




その日から半年ほどたったある日の夜

彼女と僕は向かい合わせになって研究のレポートをまとめていると彼女はいつになく神妙な雰囲気で不意にぽつりと呟きだした


「私ね、私を育ててくれたあの人の気持ちが知りたいの、そこに心は有ったのか、有ったのならどんな気持ちで私を育ててくれたのか、最後にどうしてあんな言葉を残したのか。魂の証明がそれを教えてくれる気がするの」っと

どこか過去を懐かしむように彼女はそういって終わったからもう寝るわっと僕に告げ部屋を後にした

彼女の背中に何も言えず僕はパソコンに目を向けレポートの仕上げを終えてから床につきその日を終える。


翌日の朝目が覚めると所長から僕個人宛てにメールが届いていた、珍しいな昨日のレポートに何か不備でもあったのだろうか、それにしては返信が早いなと怪訝に思いながらメールを開きぼやけた目で流し読んでいると、大きな氷の塊で後頭部を殴り付けられる感覚がした。くらくらと目眩がする、呼吸も荒くなり地面が少し頼りない


逸る心を抑え僕は最低限の着替えを済ませ、ベルトや白衣も羽織らずボサボサの髪や髭が生えたまま所長室に向かった

所長室に付くと一度だけあったことの有る彼女の祖母がそこで所長と会話をしていた。

僕は壁の裏で話を盗み聞く、どうやら彼女は昨日部屋へ帰っていなかったらしい

というのも昨日の夜僕と別れた後、研究所に有る公園の桜の木のしたで首を吊っていたのを早朝に研究所の職員に発見されたそうだ


幸いな事に彼女は一命は取り留めたが一時的に呼吸が止まっていたらしく脳への酸素の供給が足りず脳の一部が停止しているらしい

診察した医者が言うには脳の生体機能を司る大部分は生きているが感情など魂を司るのではないかと言われている部位が停止しているそうだ

所長はもう彼女は目を覚ます事はほぼ無いだろうと説明していた

僕の聞いていた限りでは彼女の祖母はもう若くない

今後、彼女の世話は研究所で看ると所長は言っている

僕はそこまでを混乱した頭で壁越しに聞くと根をはっていた背中を支えにしていた壁から引き剥がし彼女の病室へと足を向ける


冷たい川に逆らって歩くようにゆっくりと病室へ向かう

定まらない思考の中で僕はぼんやりと考える

いっそこのまま彼女を連れ出し一緒に死んでしまおうかと、彼女の居ない世界に僕は意味を見いだすことなど出きるものか

そんなこと考える迄もない、無理だ、不可能だ

そしておそらく彼女は研究所の上の人間によって口を塞がれたんじゃないだろうか

彼女の個人研究は禁忌の領域だ

知ってはいけない事を知ったか、手を出してはいけないものに手をだしたか....

僕の知る限り彼女は自殺をするような人間ではないし、夢半ばにして彼女が諦めるわけがない

それほどに頑固なのだ、彼女という人間は


彼女の病室に着き彼女のもう膨らむ事の無い頬を撫でながら考える、もう太陽のように笑う彼女は居ないのだと

ぼーっと失意に沈んでいると、ふと彼女が昔言っていた事を思い出した。

「もしも、もしも私が死んじゃったら君が代わりに私の夢を叶えて、証明して欲しい」


「魂の所在の証明を」


彼女の望みを思い出すと僕は逸る気持ちを抑えなるべく急ぎ足で一度自室に戻り、荷物をまとめ大きめのリュックを持ち彼女の部屋へ寄った

研究所から与えられたパソコンのデータはやはりすべて消されていたが私物の秘密研究用に彼女が持ち歩いていたノートパソコンが有ることを思い出し、それを教えられていた床のしたから掘り起こし中身を確認するとそちらは無事だったので、その研究データを僕のメモリへとコピーした。

次に病室へ向かい大きめのリュックに僕の宝物を詰め込み部屋を後にする

上の人間に消されたと言うことは自分の身も危ないかもしれない

それに彼女の夢を継ぐ人間が途絶えてしまう

いち早くここから逃げよう

そんなこと考えながら歩いていくとやはりどうしても顔に出るのか雰囲気に出ているのか

すれ違う何人かに怪訝な顔をされながらもなるべく何時もどうりにつとめて挨拶をする。

同期の研究員から

「そんな大きな荷物でどうしたぁ?運ぶの手伝ってやろうか?」っと声をかけられたが僕は何時もの口調で

「フィールドワークだよ、今回は少し遠くへ行く事になってね、まぁ気にしなくていいよ、荷物もそこまで重たくないし」

と裏返りそうな声を必死に抑え返す

同期の彼はそうかい、お気を付けてっと返事をすると再び彼は自室の方へ歩きだした

たった十数秒やそこらの会話だった

それなのに僕の脇や背中はじっとりと汗ばんでいた

幸いな事にそれ以降は誰かと出会う事はなく、最後に会話したのも研究所の玄関の職員との入出管理だけだった。

暫く歩き続け研究所からある程度離れた所で整体認証の機械を持っていたナイフで腕を切り付けて抉り出す

もう一ヶ所小型のGPSが埋まっているがそれは等の昔に遮断しているので問題無いだろう。後で知り合いの闇医者にでも頼み取りだそう

一息ついたところで僕はこう思う

正直僕の人生の中で一番の緊張だった

研究所の入所時の面接の時より遥かに...

何せ荷物が荷物だ、こんなもの運んでいるのがバレたらその時点で終わりだし、それに僕の予想じゃ上層部の人間に監視されていた、まさに時間との勝負だった


取り敢えずもう少し距離を稼ごう、北に有る昔に僕が誰にも内緒で建てさせた別荘が有る あそこなら暫くの生活や研究の設備も揃っているし、なおかつ人にバレにくい

そこで彼女の研究を引き継ごう。


ひとまず銀行に寄り研究所が管理している僕のネットバンクの貯金をすべて闇口座に切り替えた

おそらくこれで暫くは時間が稼げるだろう



もう2日は歩いただろうか、最低限の休憩以外はずっと歩いていた

今日は久しぶりにホテルにでも泊まろう身体も洗いたいし服もかえなくてはいかんだろう

少し歩き丁度良いホテルが有ったのでチェックインを済ませ荷物をおろす

大きめのリュックを拡げると病室で視たままの姿で彼女は収まっていた

それもそうだ 呼吸や心臓の鼓動といった最低限の生命維持以外の生体機能は僕が開発指揮を勤めた生体機能健康管理システム(BFMHS)によって管理している

カバンの中から彼女を取り出し風呂場へ抱え運ぶ

いくら機能が停止しているとはいえ、流石に風呂くらいは入れてやらないと彼女もきっと怒るだろう

身体を優しく拭き風呂を済ませ入院着の用な楽な服を着せると彼女に特殊なタブレットを食べさせた

味は不味いがこれさえ有れば一週間は何も食べ無くても良い優れものだ

僕はこれを飲むことはそう無かったがハードな同僚達はこれをよく常用していたのを思い出す

まぁ、僕が飲まなかったのはこれを飲むと彼女に激しく怒られるというのもあったが

そんな懐かしいことを思い出しながら僕も食事を終え研究の基本コンセプトを手記に纏めてから床につく

明日も早い今日はもう寝よう




セットしていたアラームと共に目を覚ます

どうやら一度目のアラームで起きれたようだ

時刻は朝の四時を少し過ぎた頃、チェックアウトの準備をして彼女に少し水を飲ませる

今日は大学の同期の闇医者の所へ向かおう 近くにクリニックを構えていたはずだ

あそこで心臓にリンクしているGPS等の研究所が用意、手術したデバイスを二人共外してもらおう

せっかくだ彼女の検査等もやって貰い、彼も研究に引き込もうかな  良し、きっとそれがいい

彼ならば彼女の研究も知っていたし、僕たちの関係も知っている  何より彼は面白い研究の為ならば社会を敵に回してもなんとも思わないような少し壊れた(本人は否定するが)人間だ 


予定していた四時半にホテルから出てみるとまだ少しくらい、この時間なら目立つことも無いだろう

追い付かれる前に闇医者の元へ急ごう

ホテルから6時間程歩いただろうか、趣味の悪い凡そ病院とは思えない看板のついたクリニックへつくとこれまた趣味も縁起も悪い符丁を言いながらドアを叩く

「潰れたザクロ」

「.....取り出した物は」

「ホルマリンに浸けましょう」


三分程待つとドアが開き奥から男が出てくる

男の肌は蒼白く髪は伸ばしっぱなしで寝癖が酷い

腕や胸元から覗く鎖骨はひょろりと骨が浮き出ている

どうみても健康な医者には見えない、裏の葬儀屋だと言われた方がまだしっくりくる

これで案外普通の医者より腕が良いのだからたちが悪い


「おやおやこれは久しぶりだぃ!

来るのなら連絡をくれないかい?僕だっていつもここにいるとは限らないよ?」

飄々と人をからかうような顔と少し高めの声で彼は話しかけてくる

「すまないとは思っているが少し込み入った事情が有ってね

今回ばかりは許してくれ」

「仕方がないねぇ君はそういうやつだ、何度今回だけだと見逃しているか、両手じゃ足りないよ?...君は払いが良い太客だ仕方ないねぇ

今回も流そうじゃないか

それで?事情とはなんだぃ?厄介は基本勘弁なんだよ?」

彼はやれやれっと肩をすくめながら何時ものように許してくれた

「ありがとう、君ならそういってくれると思ったよ

しかし、闇医者が厄介事が勘弁とはおかしな事を言うものだね、本題は三つある。まずひとつ二人分手術を頼みたい、内容は体内の特殊デバイスの除去、機能はもう停止してある、場所が厄介でね、安心できる腕の良い君に頼みたい、それと植物状態の人間の診察と今後の方針の相談、最後の一つは....」

「もう一つは?」

「....これは断っても構わない、僕は成し遂げると決めている。僕の研究のサポートを君に頼みたい」

「なるほど共同研究か...研究内容は?」

「その話をする前にオペから頼んでもいいかい?いくら停止させているとは言え何時こいつが再び動き出すか不安なんだ。研究の内容も、もう一人を見れば君なら解るだろう...」

「わかったよ、取り敢えず簡単な問診票を書いてくれ二人分、その植物状態の人とやらも含めてね」


体重や身長等の基礎データやご飯を食べていないか等の簡単な質疑応答を紙に纏めると僕はリュックから彼女を取り出す

彼女の顔が顕になると後ろで息を飲む声が聞こえた

BFMHSの存在を彼は知っているのでそれを使用していること彼に伝える  何せ開発の際データの収集や裏で人体実験等するとき彼の紹介の人間で試したりもしたからだ

「なるほど、僕の予想が間違っていなければ君の研究とは彼女の研究の事かな?君が諦めるわけがないよ...

さあ!積もる話しは後でしよう、デバイスだったかい?君で厄介となると心臓付近でなおかつ無理に外すと何かある感じかな?」

「あぁ、たぶんそうだ、場所は心臓、無理に外すと恐らく毒物が流れるタイプだと僕は予想してる」

上の人間は知らないと思うが僕は既にこれについて停止させるときに自分のでする前に何度か研究所の人間で実験をしている

何度か失敗しているがやり方はもう解る

「手順は僕が説明する、君が執刀してくれ」

「意外だね、彼女からするのかい?」

「いや、僕のから頼む、麻酔は局所で構わない、一回で慣れてくれ」

「正気ではないねぇ、まぁいいよやって見せよう

久しぶりに緊張感のある楽しいオペだ」

その後二時間程入念にオペの順序や今後の予定などの摺合せを行い奥の部屋へ入り寝台で寝ながら彼を待つ

流石にオペ前だからだろう 風呂へ入り爪などの身嗜みを整えた彼が助手にオペの開始を告げオペが始まる




「縫合終了っと...いやーこれは久し振りに緊張したよ

なぁにこれぇ?ちっちゃいねぇーこれ付けた奴と開発した奴から話聞いてみたいわぁ、絶対!性格悪いから!」

余程緊張したのだろう一気に喋り出す彼に向かって現実を押し付ける

「もう一人分宜しくぅー、僕は少し休むよ」

そうだったもう一人居るんだったと項垂れる彼の背中を尻目に見ながら部屋を去る

それから数時間後、彼女のデバイスを外し終えた彼がベットに横たわる彼女と共に待合室にくる


「終わったよぉー ついでに彼女の診察もしたけど、彼女何が有ったの?これ 凄い不思議なことになってるよ?」

「不思議?脳の一部が機能を停止してるんだろ?」

「いーや?停止なんかしてないよ、私が視たところでは身体は健康そのもの

脳も何も以上をおこしていない、むしろ何で彼女は動かない?」

それはおかしい、所長の言っていた説明と食い違う

だが好都合だ脳が100%生きたまま残っているのなら、僕の研究はやりやすい、その方が都合が良い

「そうかい、なら次は今後についてだ、BFMHSはこのまま使い続けても構わないかい?」

「ああ、あれならたまに切るならそのまま使い続けた方がむしろ良い 流石僕も開発の手伝いしただけはあるよね」

「そうかい、わかったよありがとう

次にだが僕の研究についでだが、まずっ!?」

突如けたたましく警報が鳴り響く

「君!なに引き連れて来たのさ!

えっ!?めっちゃいんの?50?多くない?」

彼の助手が外の様子を確認したのだろう、もう囲まれて居るそうだ

「仕方ないなぁ!長い付き合いだ!研究とやら手伝ってあげるよ!地下に脱出口があるから荷物持っていくよ!」

彼女を背負い僕と彼と助手さんは床板を外し地下へと続く階段を下りる

20分程だろうかえらく長い階段を下りると少し大きめの車が止まっていて、その先はずっと繋がっていて暗くて見えない

彼は自らの荷物をトランクに積み助手席に乗り込むと「さぁ!早く乗って!逃げるよ!」っと叫ぶ


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