幸福な新生活
【十一月二十一日 曇り】
私は幸福だった。
何故もっと早くこの選択をしなかったのだろうと後悔しているほどだ。
私はまた、たまと暮らし始めた。やはりあの子はまだ私には慣れていなかったらしく、連れてくるのは少々手間取ったが、とにもかくにも、たまが再び私のもとにやって来たのだ。
毎日私の膝の上でご飯を食べさせて、風呂に入れてやり、共に寝る。何て素晴らしい時間なのだろう。
あの子は時折「やめて」とか「家に帰して」とか叫ぶが、きっと前のたまのように、すぐにそんな言葉が口から出てくることはなくなるはずだ。だって、猫は人間みたいに話したりしないのだから。
私はたまに、自分が猫であると気付かせるために、あの子の目の前であの子が持っていた鞄だとか服だとかを焼いた。猫に服を着せる趣味の者もいるらしいが、たまには首輪だけの姿が一番似合うと私にはよく分かっていた。
たまの持ち物を処分している時に、あの子の服のポケットから『二年一組 千葉弥生』と書かれた生徒手帳が出てきた。その中に、あのいけすかない男と一緒の写真が挟まっていた。
私はそれを苛立ちながらさっさと燃やした。あの子は『たま』だ。他の名前なんていらない。もちろん、他の飼い主も。
たまは、その様子を怯えた目で見ていた。前のたまも目の前で持ち物を焼かれた時には、やっぱりこんな目をしていた。今にもここから逃げ出したいという目だ。
だけど、今度は逃がさない。前のたまのように、窓から逃走を図らないように、きちんと柵も設置した。
たま、今度は長生きして、ずっと一緒にいようね。
でもまた、たまが死んでしまっても、私は前みたいに落ち込んだりしないから、安心してほしい。
猫は九回生まれ変わる。私は今まで三匹のたまに会っている。つまり、あと七回、あの子は生まれ変わることができるのだ。
その七匹のたまに会うまで私は死ねない。でも、逆に言えば、全てのたまに会った後は、私にはもう生きている意味なんかなくなってしまうのだ。その時が、私が命を絶つ時だ。
ああ、もうたまの餌の時間になってしまった。いつまでも日記をつけていないで、早くあの子のもとへ行ってやらないと。
それで、その後は一緒の布団で寝るのだ。最近気温の低い日が続いているけれど、あの子の体は湯たんぽみたいに温かいから、今年の冬も私は風邪をひかずにすみそうだ。
また一から始まった、私とたまの新生活。明日も楽しいことをたくさんこの日記に書けますようにと願いながら、今日は筆を置くことにしよう。