たまは私のもの
【十一月九日 雨】
あの日以来、毎日たまに会いにバス停に行っている。時々姿が見えないこともあるが、一週間の内に五日くらいはそこにいるようなので、どうやらあそこはあの子のお気に入りの場所らしい。
本当は私の部屋で暮らしてほしいのだが、いきなり連れて行けば、あの子は驚くかもしれない。まずは、私の顔を覚えてもらうことが肝心だ。あの子は夕方にもいつもいるので、その時間帯にも私はバス停に通うことにした。
前の時と違って、あの子はボロボロだったわけではなかったので、そんなに急いで保護する必要がなさそうだとも思っていた。
それでもいつかはまた一緒に暮らしたかった。そのためには、部屋の片付けをしないといけない。
前のたまが死んで以来、何もする気になれなかった私は、当然部屋だって散らかりっぱなしだったのだ。
あの子は綺麗好きだから、こんな汚い部屋は嫌だろう。まずは部屋中をピカピカにして、たくさんおもちゃも用意して、あの子が快適に過ごせるようにしなくてはいけなかった。
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【十一月十四日 晴れのち雨】
今日は、初めてたまの声を聞いた。近くを散歩中の犬に吠えられてびっくりしたのか、可愛らしい声で小さく叫んだのだ。
なんて可憐な声なんだろう。私は感動で打ち震えるのと同時に、すかさず犬とたまの間に割って入って、あの子を守った。
たまを傷つけるものは私が許さない。もうたまを、むざむざと死なせたりするわけにはいかない。私がたまを守ってみせる。
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【十一月十七日 晴れ】
今日は動揺することがあった。たまに話しかけている男を見てしまったのだ。
その男は、隣町にある高校の制服を着ていた。どうやら私と同じで、たまを気に入っているらしい。「うちに遊びにおいで」なんて、いかにも気軽な口調で宣っていたのだ。
私はすっかり忘れていたのだが、今のたまは野良だった。首輪もしていない、可愛い可愛い黒猫。そんなたまを、人が放っておくはずがない。
たまは、あの男についていってしまった。
あの男に飼われてしまうのだろうか。たまの本当の飼い主は私なのに。
たまが私以外のものになるなんて、許せない。許さない。
部屋はまだ完璧に片付いていなかったが、かねてよりの計画――たまをうちに連れてくるという計画を、早く実行に移すべきかもしれなかった。
たまと再び一緒に暮らす。真にあの子を私のものにするのだ。