震洋艇の戦後
架空史です。
架空戦記創作大会2021春参加作。
震洋艇は水上特攻兵器である。その生い立ちと運用は悲惨でしか無い。そして戦後、残存の震洋艇をどうするかが問題となった。
てっとり早いのはスクラップである。だが、スクラップと言っても取れる鉄は少ない。むしろ手間が掛かる割に回収効率が良くないとされた。家庭の鍋ヤカンまで徴発した連中が何言うかだったが、アメリカから鉄が入ってくるし、もっとデカいスクラップ(伊勢・日向など)が有るので、急ぎの仕事とは取られなかった。
では、どうするか。なにしろ急造のベニアであり、艇体がいつまで持つか分からない。
その中で地域の活性化に使えないかという声が出た。
使えたらこいつらも平和な用途でうれしいだろう。だが、どうやる?
【一号艇。中川弘一、元中尉。内側から一番ブイをギリギリに攻め、他艇につけいる隙を与えません。ただエンジン整備力に問題が有り、常に快調というわけではありません。】
【二号艇。若松信三、元一等水兵。スタート感が良く、平均タイミング0.15秒という信じられないタイムでスタートを切ります】
【三号艇。田中忠治、元一等整備兵曹。スタートは並み。ブイ回りもそう上手くありません。ただエンジン整備が上手く、直線は一番です】
【四号艇。太田浩二、元准尉。スタートは遅めですがブイ回りが非常に上手く、先行する艇がモタモタしていると鋭く差してきます】
【五号艇。柴田浩、元兵曹長。スタートは普通ですがインに入ればブイ回りで無敵の強さを誇ります。整備力もなかなかいいです】
【六号艇。松尾完治。元兵曹長。スタートタイミングは上位の早さです。そして大外を捲る旋回の鋭さがあります】
選手紹介が行われた。
{解説の鈴木さん。元少佐ですが、このレース、どう思われますか}
{そうですね。柴田がピット離れ良く1コースを取ることが出来れば、決まりと言ってもいいでしょう。問題は2コースに入ってしまった時ですね}
{ほう、それは?}
{スタートが遅れれば勝ち目はほぼ無くなるので、外の選手に潰されて着外でしょう}
{では、誰が1コースでも同じですか?}
{そういう傾向はありますね。柴田の場合は1コース以外の勝率がとても低いですから}
{では、鈴木さんは誰を……}
「早いよ早いよ」
「こいつが本命だ。どうだ」
「ターンマーク一番はこいつに違いない」
場内では予想屋が声を張り上げ、自分の予想が一番だと気勢を上げる。
「締め切り!」
勝ち船投票終了だ。レースが始まる。
{各艇ピットを離れた。スタート地点では激しいコースの取り合いが行われています}
{柴田がインに入れそうですね。気になるのは松尾が2コースになりそうな気配がします}
{仲悪いですからね}
{事故が起こらなければいいんですが}
{勝ち船投票券を買った方はたまったものではありませんからね}
{一号艇と二号艇はかなり深いスタートをするのか、波乱含みかな}
{本命は来ませんか}
{どうでしょうね}
{いよいよスタートです}
【内から五号艇柴田、2コース六号艇松尾、三号艇田中、二号艇若松、一号艇中川、四号艇太田の順で並びました】
【二号艇は奥、一号艇四号艇はかない深い位置です】
【スタートしました。一号艇四号艇が航走始めました。次いで二号艇。さあ五号艇六号艇三号艇も航走始めました】
【スタート!フライングは確認されていません。スタートは正常】
【二号艇速い。内へ切り込んでいきます】
【二号艇先頭で1マーク回り始めますが】
【二号艇のインへ五号艇と六号艇が突っ込んでいきます】
【二号艇に五号艇六号艇が接触。五号艇六号艇は外へ。二号艇は行き足止まりました】
【一号艇が二号艇五号艇六号艇を差し1マークを回ります】
【続いて三号艇四号艇回ります。二号艇動き出しました、前艇を追います】
【五号艇六号艇は、え?そのまま直進しています。艇体をぶつけ合いながら直進です】
【あ!五号艇六号艇に赤旗出ました。失格です】
【一号艇2マーク回ります。次いで三号艇四号艇。離れて二号艇】
【五号艇六号艇の勝ち船投票券をお持ちの方はスタート正常でしたので払い戻し対象ではありません】
【五号艇六号艇は払い戻し対象ではありません】
【さあ、最後の直線。一号艇ゴール!三号艇四号艇もゴール、離れて二号艇もゴール】
[確定。1着一号、2着三号]
【このレースは正常に終了しました。返還はありません。繰り返します。返還はありません】
その後プチ騒ぎがあり、柴田と松尾は正座で反省の姿を見せながら観客に罵声を浴びせられることとなった。
選手としては競艇協会から1ヶ月の乗艇停止と選手ランクを下げる等の制裁が加えられた。
選手ランクを下げられると、賞金の良いレース場から呼ばれにくくなる他、賞金の高い後半のレースにもなかなか乗せてもらえなくなる。
震洋艇は徐々に寿命が来て廃艇となるが、代わりに数回にわたり徐々に小さい艇体が開発され、よりエキサイティングに成るのだった。
震洋艇は一人で動かせるように改造されています。