魔物と山を拓く。
「元気でな!」
見送りに来た兄の言葉は明るい。
ごくつぶしを厄介払いできたことがうれしいのだろう。
どうしてこうなったのか…と後悔をする。
幼いころから優秀だった俺は、村の援助で王都の学院に進学した。
学院では、恵まれた環境の中で学業に励めた。
学院を卒業すれば、役人、学者や軍人など仕事は選び放題で、将来の不安は無かった。
そう、卒業すれば…
卒業を目前にして、100年に1度とも言われる飢饉が国を襲った。
村からの援助も無くなり、学院に残ることはかなわず、村に帰ることになった。
村に帰った当初は、両親、兄や村の人達も喜んでくれた。
実家の畑は、すべて兄のモノ。俺の畑は無い。
仕方が無く、村はずれの荒れ地を開墾しようとすると、
「今は使ってないが、そこは、俺の土地だ。」
所有者が出てきて、権利を主張してくる。
「使ってないなら、貸してください。」
「なら、作物の半分を渡すこと。」
とても無理な年貢を要求される。開墾した土地の作物を半分も持っていかれては何にもならない。
村の議会で相談しても話は通らなかった。
議会では、村の役に立つように村の農業の改善も訴えた。
麦ばかりを作る村の人たちに対して、
「麦の病気が流行ったら、飢饉が起きた時全滅する。他の作物も作った方が良い」
と言えば、
「ジャガイモなんか金にならん!雑穀なんか家畜のえさだ!わけのわからないことを言わずに麦を作れ。まあ、土地があれば。だがな!」
ジャガイモは安く売られるし、雑穀も普段なら人は食べないものだ。しかし、飢饉にあえいでいる状況では必要な作物だ。
土地も無い若者が、農業に口出ししたことが決め手になり、村から浮いた存在になった。
無為に過ごしているうちに収穫の時期が来たが今年も麦は不作。村では口減らしの話が出てきた。
そして、真っ先に選ばれたのが俺。
村の天才少年は、村から追い出されることになった。
そして、今日が追い出される日。
村の近くで、追い出して近くに復習されると困るということで、村から馬車で5日ほど離れた山まで連れてこられた。この辺りは魔物が出るような危険な場所だ。
「元気でな!」
兄は、長年の悩みが晴れたような顔で俺を見送る。
「ナイフとか、火打ち石とか…旅路で役に立つものは?」
「悪いが、余裕がない。渡せるのは、これだけだ。」
兄に渡されたのはジャガイモだった。
村を旅追い出された俺の旅が始まった。
装備はジャガイモ。