Promise -約束-:前編
『約束ね』
『うん。絶対』
『OK!』
『分かった!』
広がる野原には、たくさんのシロツメクサの白い花と緑のクローバー。
そこに座り、微笑む四人の少女。
風は優しく、彼女逹を包む。
流れるのは、それだけじゃない。
とても優しくて。
そして、とても大切な時間。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「次は~四葉野~四葉野~」
無感情なバスの車内アナウンスに、うつらうつらしていた私は飛び起きた。
そして、慌てて停車ボタンを押そうと手を伸ばす。
同時に、まったく同じモーションをとった二つの腕に、思わずその手の持ち主達と顔を見合わせる。
二人とも女性だった。
歳は私と同じくらい。
少しバツが悪そうに、お互いに顔を見合せ、何となく譲歩するように停止し、その後、三人まったく同じタイミングでボタンを押す。
それでまた、バツが悪くなった。
間もなくして、バスはひとつのバス停に着いた。
そのバス停は「あの頃」…私の幼少期と変わっていなかった。
そこは、何もないド田舎の一角。
見渡しても、目に入るのは緑の山並みと田園。
行き交う車も無く、人っ子一人見当たらない。
でも、それが私の故郷。
普通に見れば、私くらいの年頃の女性が、好んで下車するような場所ではない。
いるとすれば、相当なもの好きだろう。
が、
「…」
「…」
「…」
下車したまま立ち尽くす、もの好き三人。
私はチラリと、残り二人を盗み見た。
一人は小柄で、おとなしそうな女性。
こんな田舎に似つかわしくない、上品な顔立ちだ。
とは言え、やや童顔で三人の中ではダントツに年若く見える。
もう一人は、やや日焼けした長身の女性。
見るからに活発そうで、気が強そう。
現に同時に下車した私と小柄な女性を、胡散臭そうに見ていた。
私はそれに愛想笑いを浮かべたが、彼女はますます不審な者を見るような目になった。
「あのぅ…」
ふと、小柄な女性が声を発した。
見た目に合った、カナリアのような可愛らしい声だった。
「もしかして…一城さんと三谷さん…?」
「…え?」
一城は確かに私の名字だ。
もう一人の長身の女性が、小柄な女性と私を交互に指差す。
「ウソ…ま、まさか…ユーノに千夏ちー!?」
ちなみに「ユーノ」は、私の子供の時のあだ名だ。
「冬乃」だから「ユーノ」と呼ばれていた。
そして「千夏ちー」とは、三人いた私の親友のうちの一人…「二宮 千夏」という娘のあだ名だった。
もう、確認するまでもない。
この長身の女性は…
「あんたは相変わらずだね、アッキー」
私がそう言うと、長身の女性…「三谷 秋那」が、途端に相好を崩した。
「元気だったか、お前ら!!」
こうして。
10年ぶりの再会は、乱暴な抱擁で始まった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そっか。アッキーは念願のアパレル関係に進めたんだ」
「そういうユーノはカメラマン、千夏ちーは銀行員か。何か対照的w」
「みんな、違う道に行っちゃったね」
千夏がしみじみと呟く。
そう言いながら、私達旧友三人組はのどかな小道を進む。
この同郷の親友たちとは、実に久し振りだ。
片田舎の高校を卒業した後、しばらくはやり取りがあったが、社会人になるとそれも日々の忙しさの中で希薄になっていった。
堅実で、細かいところまで気が回るお嬢様の千夏。
流行に敏感で、アグレッシブな男勝りの秋那。
そして、何の取り得もないが、写真を撮るのが好きだった陰キャな私。
それぞれキャラに接点が無いくせに、妙にウマが合った私達は、保育園の頃から意気投合し、何かとつるんでいた。
そんな三人が、何故故郷に戻ってきたのかというと…
「でも、二人共『約束』を覚えていてくれたのは嬉しいな」
「ん、まあね」
「何となくかな」
無邪気な千夏の言葉に、私と秋那は少し視線を逸らす。
千夏の言葉にあった「約束」
それは20年後、全員が誕生日を迎え、同じ年齢になった日に、故郷にある思い出の場所でまた会おうと交わした、幼い日の約束の事だった。
私は苦笑しつつ言った。
「『大人になったらタイムカプセルを掘ろう』なんてベタな約束、正直、よく覚えていたと思うよ」
「右に同じ。でも…何か不思議なんだよな」
秋那の言葉に、顔を見合わせる私と千夏。
「なぁ、あたしたちってさ、そもそも三人だったっけ?」
その言葉に。
私と千夏が硬直する。
「…やっぱ、そう思った?」
「私も思ったよ…もう一人、誰かいたよね?」
不思議な感覚だ。
幼い頃のみんなとの思い出は、ある程度鮮明に浮かび上がってくる。
だけど、いつもつるんでいたこの三人以外の誰かの記憶が、時折フラッシュバックする。
しばらくの沈黙の後、秋那が笑って言った。
「やれやれ…三人そろってボケるには早いだろうに」
「振ってきたのはアッキーじゃん」
私が肘で秋那を突くと、千夏がまだ気にしたように呟く。
「本当に気のせいかな?」
「そうだって。何せ10年近く前の話だよ」
千夏の言葉にそう言う秋那。
私は。
それに曖昧に頷いた。
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