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9.告白される者

 


「成瀬さん! 成瀬さんのことが好きです! 付き合って頂けませんか!?」


「…………ごめんなさい」


 私は深く深く頭を下げる。


「理由、を聞いても……?」


 悲しそうな顔に少しだけ胸が痛む。


「あの……、申し訳ないことに、一度もお話ししたことがありませんし……お付き合いはちょっと……」


 見覚えはあるけれど、正直に言ってしまえば名前も分からない。

 そんな相手の告白に頷けるわけがなかった。


「そう、ですか。……お時間頂き、ありがとう、ございました」


「いえ……」


 初めの頃はドキドキしていた告白も、今はもう回数を重ね過ぎて、同じ台詞を繰り返すただの行為に成り下がっていた。


 昼休みももうあと10分であることを確認し、私は最上階の屋上から、階段を降りる。



 6階の廊下を1人歩いていると、廊下の奥から女子生徒の声が聞こえてきた。


「流川くん……」


 普段ならスルーしている私も、立ち止まらずにはいられなかった。


「あの、ね……」


 緊張した雰囲気と、少しだけ震えている声。

 人がいない廊下を合わせて考慮に入れればすぐに何であるかは分かる。


 盗み聞きは良くないと思っているのに、どうしても気になってしまった。


「流川くんのことが……好きです! 私と付き合ってください!!」


 私は階段の途中で息を殺して立っていた。

 心拍数は上がりに上がっていく。


 ……どうしよう。


 もし蓮が了承したら、どうしよう。


 今日ここで蓮に彼女ができてしまったら、どうしよう。


 家に帰った時、どうやって接すれば良いのだろう。


 蓮が告白されることなんて、散々花恋から聞いていたのに。

 いざその場に鉢合わせると、不安で不安で仕方がなかった。


 私は脈打つ心臓に手を当てて、蓮の返事を待つ。


「……ごめん。付き合うことはできない」


「そ、そう、ですか」


「うん、ごめん」


「い、いえ! 失礼します……」


 廊下をかけていく足音はだんだんと小さくなっていった。



 こんな状況下で、良かったなんて安心している自分が心底嫌になる。

 なんて最低な人間なのだろうか。

 人の失恋を喜ぶなんて……。


 今思えば、自分の中で幼馴染という立場が特別であると奢っていたのだ。


 蓮のことは昔から知っているから、誰よりも長く一緒にいるから……、そんなことなど告白の1つ、蓮の気持ち1つで変わってしまうというのに。


 この立ち位置に甘え切って、安心している自分がいる。


 このまま何もしなければ、蓮が私の隣から居なくなってしまうのも時間の問題かもしれない。


 しかし、だからといって告白はハードルが高過ぎた。


 もしも断られたら…………。


 家で一緒に暮らすのが気まず過ぎて耐えられない。

 今の関係が心地良くて、これがずっと続いて欲しくて……。


 ……どうすれば良いの!?


 私は途方に暮れた。


「……美月?」


 名前を呼ばれ、顔を上げると目の前には蓮がいた。


「あ…………」


 自分の世界に入り込んでしまって、蓮が近づいてくることに気がつかなかった。

 何という失態……。


「ご、ごめん。盗み聞き、するつもりじゃなかったんだけど……」


 私は取り敢えず聞いてしまったことを謝罪する。


「いや、それは良いんけど……。美月はこんなところで何してたの?」


 蓮の声色は穏やかで、怒っていないことに安堵する。


「え? え、えっと……、蓮と、同じ感じ……」


「……返事は?」


「え……、お断り、したけど……」


 どうして蓮がそんなことを聞くのか理解できなかったが、本当のことを伝える。


「そっか……」


 その言葉からは、何の感情も読み取れなかった。



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