8.影響力
「音楽、来週テストだっけ?」
「そうそう」
花恋と音楽室へ向かうために廊下を歩いていると、反対側からやってくる蓮が見えた。
まだ転校して少ししか経っていないのに、既に友人に囲まれているところを見ると、流石としか言いようがない。
蓮の周りには同じクラスの男子だろうか、その奥には多くの女子生徒の姿。
異様な光景だ。
「あ……美月」
あちらも私に気が付いた。
「蓮……」
無言でただすれ違うのが1番目立たないのだが、その選択肢がないのが流川蓮と成瀬美月である。
集団は廊下の真ん中で立ち止まる。
「美月は……音楽か」
「うん、そう。……蓮は?」
「科学室からの帰り」
「そっか……じゃぁ、また後で」
「うん、じゃあ」
何の中身もない会話だけれど、周囲の人間が耳を澄まして聞いているので、こちらが申し訳なくなる。
なんだか、どうでも良いこと聞かせてしまった。
しかも、チラッと周りを見ると、何故か人が増えている。
恐るべき流川蓮である。
サササッとすれ違うと、少しだけ視線が和らいだ気がした。
「ああ! やっぱり推せる!!」
小さい声でも喜びを隠し切れていない花恋が私の隣に並ぶ。
「……推せる?」
「うふふ。流川成瀬ペア。美男美女すぎて。眼福!! ツーショットが神々しい!!」
「え、えぇ?」
確かに蓮の美しさはそうかもしれないが、私は別に……。
しかし、にっこにこな花恋に私はそれ以上言うことはしなかった。