7.お買い物
「美月、買い物行くけど、何か買ってきてほしいものあるか?」
夕方のニュースをぼんやりと眺めていた私に蓮が話しかける。
「買い物行くの?」
「うん」
私はソファから体を起こし、蓮の方を向く。
「私も行って良い?」
「勿論」
私はテレビを消して、玄関で先に靴を履いている蓮を追いかけた。
シンプルなTシャツを着てここまでかっこよく見せられるのは蓮だけだと思う。
……なんて、今日も隣の幼馴染の美しさを心の中で自慢する。
ほら、主婦の皆さんも見てるよ。
「美月、今日の夜食べたいものある?」
カートを押す蓮が聞いてきた。
「そうね……」
最近の夕食を思い出す。
昨日はハンバーグ、一昨日は麻婆豆腐だったか。
順番的には和食?
「……和食?」
「そうだな。……親子丼とかは?」
「うん。良いかも」
その後も明日以降のご飯を話し合い、次々と食材をカゴに入れていく。
「あ…………」
乳製品コーナーで目に入ったクリームチーズを見て思いつく。
「どうした?」
「ん? いや、チーズケーキ作ろっかなっと」
私は大きなクリームチーズをカゴに入れる。
「それは嬉しいな」
作る予定のレアチーズケーキは私と蓮の好物だ。
蓮のお母さんのオリジナルレシピである。
レジに辿り着く頃にはカゴは一杯になっていた。
私たちはビニール袋2つになんとか収める。
「帰ろっか」
2つとも持とうとする蓮に私は待ったをかける。
「私も持つ」
「いいよ。持てるし」
「ううん、持ちたい。……軽い方持つ」
「……分かった」
重い方を持とうなんて言ったら蓮は絶対に譲ってくれないので軽い方で妥協する。
差し出されたビニール袋を持てば、その重みがどっしりと指先にかかった。
「……大丈夫か?」
「うん。大丈夫。……辛くなったら蓮に持ってもらうし」
こんなビニール袋を持てないほど私はひ弱ではない。
勿論、蓮と比べたら体力も力も底辺だけれど。
「親子丼なんて久しぶり……」
夕陽に染まった帰り道、私は蓮と並んで歩く。
「俺なんて3年は食べてないからな」
「わぁ。それは本当の久しぶりだね」
「本当に」
近所のスーパーに買い物に行くだけでこんなに幸せな気持ちになるなんて、本当に恐ろしい。