1.プロローグ
「今日からよろしくね」
「ああ、よろしく」
目の前には3年ぶりに見る幼馴染。
美少年だった彼はいつの間にか美青年に成長していた。
当たり前だ。
そのサラサラとした黒髪も、形の良い鼻や口は変わっていないのに、身長は私が軽く見上げるくらいには高くなり、小学生の頃のあどけなさなんて全く残っていなかった。
高かった声も、低い大人の男性の声に変わっていて、ドキドキとする。
「私の部屋、どこかな?」
「廊下の手前から2番目の部屋。家具とか、荷物とかは全部運び込まれてたから」
「ありがとう。……蓮の部屋は?」
「俺の部屋は1番手前の部屋。美月の隣だ」
「そっか、ありがとう」
少ない手荷物を抱え、私は自室に向かった。
部屋には既にベッドや勉強机が置かれていて、私の荷物が部屋の中央に置かれている。
薄ピンクの壁紙に花柄のカーテン、いかにも女の子の部屋といった感じだ。
私はベッドに軽くダイブすると、近くのクッションを抱きしめた。
「……かっこよかった」
頑張って普通を装って話していたのだが、1人になるとやはり溢れ出してしまう。
長らく会えなかった蓮が…………夢にまで出てきた蓮が目の前にいたのだ。
……こんなで大丈夫なのかな。
心配になってくる。
そう、私、成瀬美月は今日から幼馴染である流川蓮と同居するのだ。
久しぶりに会った幼馴染は女神だった。
小学生の時は天使のような可愛らしさだったが、その天使が女神に成長していた。
当たり前だ。
ミルクティー色の背中まである髪は軽くウェーブしていて艶やかで、髪と同じ薄茶の瞳は大きく、長い睫毛が縁取っている。
相変わらず真っ白な肌に華奢な身体。
それでも女性らしいスタイルに変わった彼女には、どのように接して良いか分からない。
「今日からよろしくね」
透き通るような、少し高めの彼女の声に懐かしさを覚える。
「ああ、よろしく」
彼女が小さい時のように話しかけてきたので、俺もそれに合わせる。
ふんわりと微笑んだ彼女はそれはそれは美しかった。
「私の部屋、どこかな?」
「廊下の手前から2番目の部屋。家具とか、荷物とかは全部運び込まれてたから」
「そう、ありがとう。……蓮の部屋は?」
「俺の部屋は1番手前の部屋。美月の隣だ」
「そっか、ありがとう」
廊下を歩いていく彼女を見送った後、俺は思わず思った。
……俺、今日から大丈夫か?
私が蓮と一緒に住むことが決まったのは急だった。
「美月、お父さんとお母さんは次の春からアメリカに行く」
「えっ?」
大事な話があると聞いて来てみれば、思っていた以上に大きなことだった。
「でも急だし、美月は今の高校で2年に進級したいでしょう?」
「それは……うん」
「よし、美月は日本に残るので決まりだ」
「え、でも私、1人……?」
「それは大丈夫よ。蓮くんが今度帰ってくるの」
「れ、蓮が?」
「そう、でも蓮くんだけが日本に帰ってくるみたいで……。咲良さんがとっても心配しててね。だから一緒に住めば良いじゃない!! って提案したところオッケーを貰ったわ」
え…………うん?
今の、聞き間違いじゃないよね。
え? 一緒に住む!?
「蓮くんは料理もできるし、家事もできる。何より武術に長けているから、父としても娘を1人で置いていくより、そちらの方が安心できるんだ」
……まぁ、あの人無駄に強いけれど。
いや、でも、娘を男性と一緒に住まわせる方が普通は怖いものじゃないの?
蓮に限ってそんなことはないと言えるけれど……。
「美月、どうかしら?」
父も母も随分乗り気だ。
私は少しだけ考える。
確かに一人暮らしより、蓮と一緒にいた方が安心な気がする。
何かあったときに頼れる存在はありがたい。
それに…………好きな人と生活できるなんて幸せなことだ。
「…………分かった。そうする」
こうして、私は幼馴染と住むことになったのだ。