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エタナンヤルクで起こるあれこれ

己の権力欲を満たすため勝手に治安維持活動をする天使な男爵令嬢キーラちゃん

作者: 怠惰な箱


私には欲しいものがあります。


第一に力、第二に知、そして第三に権力です。


なぜ欲しいのか?


欲望に理由など必要でしょうか?


溢れ出る権力欲と一番強い奴を倒すという野望のため、私は日々鍛錬を積み重ねてきました。

そのお陰か、現在は学園次席の男爵令嬢まで上り詰めることができました。まだまだ精進しなくてはいけません。


一般市民として元気に誕生した私は、放任主義の母に放流され都を古今東西縦横無尽にここは私の庭だと駆け回り、すくすくと成長しました。


都は私の庭であると真に信じて治安維持活動に勝手に従事していたのですが、ある時そうではないことに気がつき、愕然とした過去があることもここに記しておきましょう。でも将来的には私の手中に収める計画です。


父親はいませんでした。母から「人類は単為発生して増殖する」と言われたことを、昔の超素直な私は大変素直に信じていました。天使かな?


後に判明したことですが、どうやら母は男爵家にメイドとして働いていることがあり、その時なんやかんやあった後、そこをやめて私を産んだそうです。


この話は母からではなく、近隣住民の方から伺いました(母は定期収入があったため、私たち親子は集合住宅にすむことができていたのです)。

母は一切私生誕の謎を語らないので、私は都のあちこちから、ある時は対話(魔法)、またある時は印象操作(物理)、またある時は説得(物理)をして情報を集めました。


その結果、母の昔働いていた男爵家を突き止めることができたのです。


商業の成功で成り上がり、爵位を賜った新興貴族ホーンボーン男爵家でした。金持ちです。

一代ではなく世襲できる爵位らしいのですが、当主は未だ独身。


策もなく乗り込むのは危険です。一般市民たる私など、簡単に強大な権力によって捻りつぶされるでしょう。私も捻りつぶす側の人間になりたいです。


私は下準備をすることにしました。かわいい系守ってあげたいほんわか少女的外見を有する私は、害虫駆除の労働により手にいれたお金で屋敷侵入に適した装備を整えます。ほんわかは装飾です。


件の男爵家に無事侵入した私はメイドの一人になりすまし、内部からしか得られない情報の収集にいそしみました。


手始めに母が働いていた当時からいた者を調べ、それとなく母のことを探ります。母は誰にでもノーを突きつける剛の者なので、直接詮索することができなかったからです。


結果、どうやら本当に母は私が生まれる1年前くらいまで、ここで働いていたようでした。

もうこれは色々と察してしまいますね。


次に母の交友関係です。母は今でこそ私に向かって教育的ドロップキックをかます女ですが、若いころは小柄で守ってあげたい系美人のようでした。なので、実情を知らない周囲からはメイドとして洗濯やあれこれ雑用するのは大丈夫なのかと心配されていたみたいです。誰かと特別に親しくしていたようではなくやめた後の足取りは途絶えたと、母のことを知っている古参メイドさんはおっしゃっていました。あと、同僚と交際している様子も特になかったとか。……困りましたねぇ。


あ、もちろん、「この人のこと知ってますかー?」とダイレクトに聞いたわけではありませんよ?


休憩中噂話をしている空間で、ついおしゃべりしたくなっちゃう香を少したいて、話題をそれとなく『過去働いていた人について』に誘導しただけです。


あいにく人の精神に直接作用する便利な魔法はないので、多少の小細工をしました。


あとこの屋敷で調べていないのは当主、ホーンボーン男爵だけになりました。はしばらく商売のために、都の屋敷を離れていたので接触は不可能でした。


帰ってくるまでの下準備として食材の搬入時間や従業員の就業時間を調べ、周囲に助けを求められない状況で当主から確実に情報を搾り取る計画を立てていきます。


そして待ちに待った当主の帰宅。私はその時を居合わせていました。

その容貌は伝聞で知っていたのですが、なんか運が悪そうな小太りのおじさんだなと思いました。


なぜなら馬車から降りた瞬間、彼にだけ鳥の糞が当たるという単純な事故があったのです。ただ一方で、雑誌の懸賞に応募すると当たるなどの幸運も持ち合わせているようでした。運を減点方式にすると0点、加点方式すると満点といった感じでしょうか。


糞の付いた彼は執事に介護され、そのまま屋敷の中へ入って行きました。ただ、このとき気になる反応を見せたのです。私の顔をみたとき、一瞬驚いて、まあそんなわけないかと気を抜くような表情をしたのです。


こいつはきな臭くなってまいりました。


時は来た。面が割れないように服を着替えて覆面をし、いざ襲撃です。

当主が1人になり、かつ周りに執事らがいないタイミング。それを狙って部屋に侵入します。


「だ、だれだ!」


「おっと、叫んだら命はないものと思ってください。まさかとは思いますが、首と胴体がおさらばしたいわけではありませんよね?」


私の侵入に気が付いたホーンボーン男爵がこちらを見て言いましたが、すぐさま脅しをかけます。

物を切るには刃物または高度な風魔法が必要です。今回は刃物をご用意しました。使う気はありませんが。


「……っ!」


「私の質問に正直に答えてください。あなたは、オディールというメイドを知っていますか?」


さっさと要件である母、オディールの事を聞きます。さあどう来るか……。


「な、なぜその名前を……っ!」


めちゃくちゃ動揺してます。同様のあまり上下に振動しています。

あー、これは……。


「知っているようですね。かつてあなたと彼女はどういった関係だったのですが?」


「どういった関係!?……それは」


今度は横に振動を始めました。そのうち三次元振動するのかな?


「それは?」


「ひっじょーに、表現しづらいというか、名状しがたいというか……」


「ただのメイドでは?」


「君は彼女のことを知っているようだが、それでもなお『ただの』をつけられるのか?」


「無理ですね」


母の本性を知っているということは、それなりに親しい仲だったことへの裏付けになってしまいます。


「むしろ、私の方が彼女について知りたいくらいだ。君は彼女とどういう関係なんだ」


今度は奥行き方向に振動です。三次元が見えてきた。


なんだか、緊迫感がなくなってしまいました。

これはもう、ネタばらししていいでしょう。

もしも警邏隊を呼ばれてしばらく身を隠す事になった状況を考えつつ、私はホーンボーン男爵にいいました。


「私は、オディールの娘ですよ」


そして覆面を取りました。これ、地味に高かったんですよね。


「君は…昼間の!」


「母が昔のこと教えてくれないので色々と調査してました」


いえーい、みてるー?といった感じでピースします。男爵は曲げ振動しています。そろそろ二次元振動を突破してほしい。


「……そうか、娘か。…………オディールは?」


「元気にこの世の汚れを洗濯しています」


「だろうなぁ」


男爵は懐かし気に言いました。


「彼女の娘か。確かによく似ている。行動力までそっくりだ」


「えええぇ……」


私あそこまでじゃないと思うんですけど。


「まあ、何かの縁だ。彼女のことについて知りたいならなんでも答えてあげよう」


「じゃあ、母は単為増殖できると思いますか?」


「さすがにそれは無理じゃないかな」


「ですよね」


うーん。やっぱりかぁ……。


ホーンボーン男爵はそわそわしながら、こっちをみています。


「私、母から『人間は単為発生で増殖する』って教えられて育ったので父親のこと知らないんです。私の調べた限りではヒントはメイドをやめる前後……、当時母と男女の関係にあった男性を知っていますか?」


それを聞いた途端、ホーンボーン男爵は回転軸まわりの偏心による振動を始めました。ついに三次元振動到達です。


「ままままままさかき君はははっはは」


「とりあえず落ち着いてもらえますか」


男爵はひとしきりグルグル回った後、こう言いました。


「……多分、君の父親は私だと思う」




* * *




「私権力が欲しいんですよ」


「うん?」


私はもしかしたら自分が男爵の娘かもしれないという予測をしたときから、あることを考えていました。


「なので、養子としてお宅の子にしてもらえませんか?そこから、混沌渦巻く令嬢ロードを駆け上がっていきたいので」


これが私の権力掌握の第一章であると。


感動の親子の再会を書きたかった。

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