表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇女殿下は生き残りたい  作者: 辰巳あさひ
水晶宮の虎姫
8/12

Turn 7. 騎士のススメ

水晶宮の中庭について話そう。かつて水晶宮の中庭にも他の離宮と同じく多種多様な花が咲き誇り、庭師が腕を振るった立派な庭園が存在した。散策をしながら花を愛でるも良し、午後のお茶と共に優雅な一時を過ごすにも良し。そんな絵に描いたような宮廷の庭園が確かにそこにあったのだ。


何故過去形だと言うと、まあ、今もそのような区画が中庭にあるにはある。割合的に全体の面積の1割以下という慎み深い規模になっているが。残りの9割は何かと言うと芝生なのだ。白線引いたら多分サッカー場に見えるかもしれない。


水晶宮の中庭がこうなったのは概ね文化の差が起因する。獣人族も庭園を作る文化がないわけではないが、庭園よりも重要視するのが今の水晶宮の庭の様な走り回れることのできる広い空間である。嫁いできた母がこの離宮を授かった時、獣人様式の庭に改造してしまったらしい。獣人族にしては珍しくインドア派と言う変わり種のリュエルを除けいて、この離宮の獣人族は使用人を含めよく庭園で中々激しい度合いで遊んだりする。ちなみに最近の私も常連となってしまったのだが。


リアナは兄様の初訪問の後、三日ほど落ち込んでいたがすぐに元どおりとなり、私は不本意にもまた猫じゃらしで遊ばれる事になった。全く懲りていない。最近は体力が付いたのか筋肉痛になる事はなくなったが、それに連れ激しさも増してった。最初は「やはり子供はこうでないと!」などと言って暖かい目で見守ってくれていたリュエルも私とリアナの遊びが立体起動めいた追いかけっこに発展すると室内での猫じゃらしの使用を禁止した。それで猫じゃらしの遊びは庭で行うこととなり、魔法の授業がない日にはほぼ毎日リアナとの追撃戦を繰り広げている。


今日はちょっと違う理由でリアナと中庭に集まった。珍しくリュエルも一緒である。話はちょっと前まで遡る。


 「エリシア様、武術には興味ありませんか?」


4歳の誕生日から数日が過ぎたある日、リアナが突然こんな質問をしてきた。


 「なくはないよ」


体を動かすのは楽しい。何せこの体は前世に比べ物にならないほど身体能力が高いのだ。筋力も瞬発力ば気持ちいいくらい伸びがいい。やはり目に見える成果があると努力のしがいがあるものだね。努力と言うより猫じゃらして遊ばれただけにすぎないが。


 「では、私がお教えしましょう!きっと楽しいですよ!」


武術か。確かに自分の身を守ると言う点において非常に魅力的な提案である。


 「興味はあるけど、何をやるの?剣とか槍とか?」


 「最初は徒手格闘でしょう」


 「素手?!」


 「基礎は大事ですので」


そこまで本格的にやらせるつもりなんだよ。っていうかキャットファイトの図しか浮かばない。猫だけに。


 「騎士を狙いましょう!」


 「前からたまに言ってるけど、私が騎士になれるの?皇女なのに?」


私の中で騎士はあれだ。EoCにおける高級ユニットの一つ。高い攻撃力と防御力を誇り、多種多様な乗り物にも乗れる。よって機動性も優れている万能ユニットだ。しかもEoCの騎士の武器は変形ができるためいろんな場面で柔軟な対応ができる。無論、デメリットも存在する。そうでなければゲームとして成立しない。騎士はまず高い。ユニットの作成費用も維持費用も馬鹿みたいに高いのだ。そして育成に長い時間を要する。そのため、使い所を間違えて騎士隊が大きな損害を被ると、陣営の軍事力が一瞬で垂直落下するし、回復にも相当な時間がかかる。その時攻められたらひとたまりもないのだ。そして、タイムリミットの存在するゲーム仕様上タイムロスは致命傷になりかねない。


 「なれますよ!」


 「それでは説明にならないでしょう?リアナ」


説明下手なリアナに代わり、リュエルが助っ人に入った。


 「皇族やすでに爵位を持っている方でも近衛騎士団が定めた27の技のうち五つ以上を習得すると騎士の称号が与えられます」


 「騎士の称号があれば何かいいことでもあるの?」


 「名誉や勲章みたいなものですが、近衛騎士団所属の騎士と騎士の称号を持つ貴族のみが皇族の護衛騎士になれます」


 「じゃあ、リアナも?」


  「リアナの場合、イズ評議国の騎士ですので。特例です」


 「27の技と言うのは?」


今度はリアナが勢い良く答え出す。


 「はいはい!剣の12技、槍の8技、弓の7技がありまして…」


そこまで言ってリアナは何か思い出したような顔で黙り込む。


 「実際見てみた方が早いでしょう」


というわけで場所は中庭に集合。リアナが騎士の技を見せてくれるらしい。


 「十分に離れてください。危険です」


 「防御魔法張った方がいい?」


 「エリシア様、それは私が…」


張った方がいいのか。何をやる気だリアナは。リュエルが物理防御の魔法を張るとリアナが指揮棒みたいなものを取り出す。それは一瞬光を帯びるとあっと言う間に一振りの剣に変わる。あの指揮棒のようなものが騎士武具と呼ばれるこの世界の騎士の武器らしい。登録した本人のみが使える物で、魔力を通すとどんな武器にでも変形できる。貴重な素材がたくさん使われているため作成に費用が掛かるのはもちろん、国によって製法が違うらしく作成法は国家機密となっている。ちなみにリアナが持っているのはイズ評議国製の騎士武具だそうだ。


 「故郷の技もいいですが、ここはロエムの技を披露いたしましょう」


リアナは両手で剣を構える。剣道でいう大上段の構えに似ている。そしてリアナの剣に魔力が集まるのを感じる。え?魔力?剣の技なのに魔力使うのか。第一階位の魔法程度の少量の魔力だが、確かにリアナの剣に魔力が宿り始めていた。そして次の瞬間リアナの剣が凄まじい勢いで振り下ろされる。すると強い風が巻き上がり、リアナの前方の地面が巨大な爪で引っ掻かれたように抉られた。何故か爪痕は三本。リアナの攻撃はそこで終わらず、もう一歩踏み込み切り上げ、そして再度切り下す。最終的に計9本の爪痕が地面に出来上がった。一秒も満たない短い瞬間、三回の剣撃が繰り出され、なぜか地面に抉られた跡が9本という魔法見たいな結果だ。


 「ロエム帝国騎士剣技、第5の技『竜爪』です」


 「すごいよリアナ!今の何?!魔法じゃないんだよね?」


 「確かに魔力を使いますが、魔法とは完全に異なる物ですよ。しかも騎士武具ではないと技は出せません」


ゲームではこんな細かい設定はなかったし、戦闘は個人ではなく部隊単位で行われる物だったから騎士がこんなにすごいことが出来るなんで思わなかった。騎士隊、強いわけだね。こんなのが出来る化物の集団だもんね。騎士の称号には興味はないが、この技には大いに興味がある。身に付けておけば、何かあった時に生存確率が格段に上がりそうだ。まあ、騎士の称号を得なければ騎士武具が手に入らないわけだし、なってやろうじゃないの、騎士に!魔法士にして騎士。夢が広がる。


 「うん?でも騎士武具がないと技が出せないんじゃ、どうやって技の練習をすればいいの?」


 「騎士団に申請すれば練習用の騎士武具を貰えます」


練習用とかあるんだ。こうして、リアナが武術の稽古をつけてくれる様になった。最初の6ヶ月は本当に徒手格闘をやらされた。早く騎士の技とやらを習いたかったが、割と体を動かすのは気持ちよかったし何より猫じゃらしで遊ばれるより遥かにマシだったのでよしとした。猫じゃらしは…まあ、楽しくなかったと言えば嘘になる。しかし、遊びの後に賢者タイム的な感じが半端ないのだ。何であんなに楽しいんだろう。私は結局本能に逆らえぬ猫なのか。その内グルーミングとかするんじゃないだろうな?!的な。


そして、騎士武具ではない普通の武器の扱いを習い始めた。武器は剣と弓。剣は定番中の定番で一番人気のある武器だ。もちろん戦場に立つ騎士達には剣より槍の方が重宝されるが、槍は携帯も難しく室内などでは使い難い。私は自分の身を守るのが一番の目標なので剣を選んだ。弓はリュエルのお勧めである。何も私の母上が弓の名手だったらしく、私にも才能があるのかもしれないと強く推した。まあ、才能があるかどうか分からないが、弓道感覚で趣味だと思えばいいかもしれない。


毎日忙しいく、結構充実に過ごしている。このまま何も起きなければいいのだけれど、刻限はゆっくりと迫ってきている。10歳の時に訪れるかもしれたい死を回避すべく、私はとりあえずやれることをやっておくしかない。そして時間は流れ、8歳の年が訪れた。この国で8歳は意味を持つ。皇族や貴族は子供の8歳の誕生日を盛大に祝う風習があるらしく、本人にとっては公式の場でのお披露目となるのだ。今まで、水晶宮を外に出ることのなかった私だが、ついに対外活動が容認されることになるわけだ。8歳の子供が出来ることなど高が知れているが、お披露目の日に私は初めてこの目で確認することとなる。


EoCでエリシアを殺す事になる、ロエム帝国第二皇子クルス・ロエムの姿を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ