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皇女殿下は生き残りたい  作者: 辰巳あさひ
水晶宮の虎姫
6/12

Turn 5. 第一皇子の襲来

アンスラの伝声鳥から第一皇子の来訪の知らせが来てから間もなく、正式な書状が届いた。本当に来るらしい。お陰で水晶宮は非常態勢に入っている。普段、客なんて滅多に来ないのだこの離宮。しかも第一皇子と来た。リュエルの指揮の元、皆忙しく動いている。そして私は礼儀作法の確認だ。3歳の子供に期待される作法のレベルはまあ、そう高くないわけだが、一応失礼のないようにと叩き込まれた。


今日はとりあえず心身共に疲れ切った。すぐにでも寝たいのだが、その前に第一皇子に関する情報を整理する必要がある。ベイロン・ロエム。ロエム帝国の第一皇子。第一皇妃エルメシア陛下の息子である。EoCにおける4人の主人公の一人であり、初心者用のキャラだった。本人の能力値も高く、家臣も多い。そしてエルメシア様が帝国三公爵の一人である東の公爵の娘であるため、かなり好条件でゲームが始まる。ゲームでは反乱を起こした弟の第二皇子と彼を擁する南の公爵を征伐すれば大抵片が付く。もちろん正面から挑むとタイムリミットを迎えゲームオーバーになりやすいため、先に外交で中立の西の公爵を懐柔し、その後、拗れたイズ評議国との関係を回復させるのが攻略のセオリーだ。


エリシアルートでは一応、私の味方として登場する。ベイロンはイズ評議国との関係を重んじ、力を合わせてラングナ帝国に対抗すべしと考えているためである。ちなみに第二皇子はイズ評議国など力でねじ伏せればいいと思っているらしい。何せ大の獣人嫌いだ。その点、ベイロンがゲーム通りの人物であるならば是非味方にしたい。彼の力に肖れば私の生存確率も高くなるはずだ。明日はいいところを見せて置きたい。それにしても何故ベイロンは私に会いたがるのだろう。今まで全く接点がなかったはずだ。まあ、明日になれば分かることだ。


そして、次の日。私は予想通り熟睡し、予想通り全身筋肉痛に襲われたのであった。


 「ま、まずいよ。痛くて体がうまく動かない」


 「どうしましょう。今日の授業は中止にすべきなのでは?」


 「い、いいえ、リュエル。昨日受諾しておいて、当日の朝取り消しとか失礼じゃないかしら?魔法の授業には支障ないだろうし大丈夫よ。多分」


 「あああ、エリシア様、申し訳ありません。かくなるうえは腹を切って責任を…」


 「切らなくていい!やめて!誰かリアナを止めて!」


筋肉痛の原因であるリアナのてんぱり具合は尋常ではない。しかしこの世界にもあるんだね、切腹。イズ評議国の文化かな?イズ評議国に和風の設定はなっかったはずだけど。


みんながドタバタしている内に時間は順調にすぎて、授業の時間になってしまった。ああ、緊張する。兄弟とはいえ目上の人。自分より上位の者を相手するのは初めてだ。いや、別に初めてではないか。そうだ、私は「如月 侑」の経験がある。それを生かせばいい話ではないか。十年以上社会人やっているんだ。なめるなよ!まあ、エンジニアだったので営業の人とかに比べたら対人スキル格段に落ちるけど。っていうか、人と接するのが苦手でその道選んだのもあるし、管理職になるのは嫌だからなるべくエンジニアとして生きたいと思っていたけど、多分大丈夫だよね。


そして、定刻。第一皇子来訪の知らせが来た。部屋の扉が開ぎ、四人の人が入ってくる。一番先頭にいる艶のある黒髪と琥珀色の瞳の人がベイロン殿下のはず。見覚えがある。まあ、ゲームでだけどね。なかなかの美青年だ。ゲームの主人公だし当然かな。他の二人はおそらく護衛とか従者のはず。一番後ろには我が魔法の先生のボルトン君がいる。


私は教わった通り一礼をし、叩きこまれた挨拶文を述べる。


 「導きの神トレノアに祝福された良き日、この出会いに心から感謝を。お初にお目にかかります。ロエム帝国第四皇女、エリシア・ロエムと申します。本日は…」


 「いいよ、そんなにかしこまらなくても。でも頑張ったね。えらい」


ベイロンはくすくすと笑う。ああ、どれだけ練習したと思っているの!その素敵な笑顔に免じて許してあげるけど!っていうか、体動かすたびに結構痛い。


 「初めまして、第一皇子のベイロン・ロエムだ。この出会いに神々の祝福があらんことを。そしてこっちは私の護衛騎士だ。挨拶して」


護衛の二人が挨拶をする。女性の騎士はシオネ、男性の騎士はヘミルと名乗った。やっぱり知っている名前だ。EoCに登場するベイロンの初期からの家臣である。二人とも騎士と紹介しているけど、確かシオネの方は純粋な武闘派で、ヘミルの方は魔法が得意だったはずだ。


 「今日の訪問、許してくれてありがとう。いきなりだったからみんな大変だったんだろう?」


 「いいえ、ベイロン殿下。水晶宮の一同、殿下にお会いできて皆光栄に思っています」


 ベイロンがキョトンとした顔になる。あ、ちょっとこれ三歳の対応じゃないわね。どうしよう。


 「本当にできた子だ。ベイロン殿下なんて堅苦しいよ。お兄さんと呼んでくれないかな」


なかなか気さくな性格のようだ。しかし、「お兄さんとお呼び」か。もしやお主、妹派か?そういえば、ベイロンには実妹がいるはずだ。まだ4歳だけど。でも、ただの子供に過ぎない実妹と私では毛色が違うだろうね。ここは押すべきと判断する。躊躇いと戸惑いと恥じらいを混ぜ合わせた上目遣いを一発装填!


 「お、お言葉に甘えてそう呼ばせていた出します、お、お兄様」


 「うん、よろしい」


あれ?あまり反応が薄い。不発かな。それともあざとすぎたか?


 「君のことは魔法庁で聞いたのさ。幼き魔法の天才がいるってね。私も一応正式な魔法士ってわけだし、それなり才能があると言われてきたけど、それ以上の才能のある子がいると聞いたら気になっちゃってね。しかも、それが妹ならばなおさらだろう?」


あ、そういえばベイロンはEoCでも魔法のステータス異様に高かったな。指揮官が魔法ステータス高いと戦闘でいろいろ便利なので覚えている。


 「普通に授業していいよ。私は見学するから」


そう言って、別のテーブルの方に勝手に座る。リュエル達は顔には出していないものの焦っているに違いない。ベイロンの行動が何もかも予想外で段取りが台無しである。っていうか普通に授業していいよと言われてもな。授業参観かよ。


 「では、エリシア様。今日の授業を始めたいと思います」


アンスラも緊張しているのが見え見えだ。こんなんで普通の授業ができるだろうか。まあ、頑張れボルトン君。逞しくあれ!他人事じゃないけど。そして普段通りの授業が始まる。


 「課題は…また満点ですか。予想はしていましたが、さすがです。もうちょっとペースを上げてもいいかもしれません」


アンスラが眉間に皺を寄せ、思案に入る。何かブツブツと一人ごとを呟いてると思ったら何かを決心したかのような顔で私を見つめる。


 「魔力の操作がちょっと甘いですが、練習すればいずれ良くなると思います。エリシア様が魔法を習い始めた時間を考えると、さほど遅れてるわけでもありませんから。なので今日からは第三階位の魔法の勉強に移りたいと思います」


 「第三階位だと?!」


驚いたのは他でもなくベイロンだった。お兄様、今日は参観するんじゃなかったのですか?


 「はい、エリシア様の初級魔法に関する知識はもう完璧に近いです。正直、私も信じられませんが事実です」


 「つまり、ボルトン。君はエリシアがすでに一人前の域に達していると?」


 「左様でございます。実機の方はまだ練習が必要ですが、時間の問題でしょう。後2、3か月で昇格できると思います」


 「エリシアが魔法を習ってどれくらいだ?」


 「リュエル様から2か月、私から4か月なのでちょうど半年ですね」


 「一年足らずで、昇格か。これは予想以上だね」


 「あの、お兄様、ボルトン。授業中です」


勝手に二人で盛り上がらないでほしい。つまり、あと2、3か月で初級魔法は終わりってことだよね。よし、頑張るぞい!やっと理科のような授業から卒業し、本格的に異世界の魔法が習える。ちょっとワクワクして来た。


その後、中庭で実習を行う。第三階位となると危険な魔法も多くなるのでボルトンも普段より厳しい。何より今日は貴賓もおられる。事故でもあったらタダじゃ済まないだろう。それにしても何が「普通にしてもいいよ」だ。爽やかにそんなこと言ってたくせにベイロンはちょくちょくボルトンや私に話を掛けてくる。おかげで、普段より集中できなかった。まあ、今日は仕方ないか。


授業が終わり、お茶の時間を設けた。やっと一息つける。


 「それにしても驚いたよ。魔法の進み具合もそうだけど、よくそんな長時間授業ができるものだね」


 「それが不思議なことでしょうか?」


 「ノエル、あ、ノエルは私の実妹で君より一つ年上の子だよ。ノエルは最近習い事を始めたけど、君みたいに長く集中できないのさ。多分、その歳の私も同じだったと思う」


 あ、確かに子供が集中できる時間は短い。私の場合精神年齢34+3歳だからね。しかも、目標意識もあるわけだしね。


 「お言葉ですが、ベイロン殿下。エリシア殿下を基準にするのはあまり意味がないと思います」


 「確かにそうかもね。エリシア。君はすごいね。ちょっとうらやましくも思うよ。同じく魔法の道を歩む者としてね」


 「お褒めいただきありがたく存じます」


 「君は、本当に三歳かい?」


ちょっとびっくりする。気付かれては、いないよね、さすがに。相手が転生者だなんて誰が想像するだろう。でも言葉遣いにはちょっと気を付けた方がいいかもしれない。リュエル達はもう慣れてしまって何とも思わないようだけど、他の人から見たら私は異常の塊のはずだ。むやみに警戒されるような行動をする必要はない。私の目標はまず生き残ることだから。あ、その目標改めて聞くとちょっと悲しくなって来た。


そしてやっと解放の時間がやってきた。お客様、早くお帰りになって!


 「今日はありがとう。君に会えて良い刺激になったよ」


 「私もお兄様に会えて嬉しかったです。たまに遊びに来てくださいね」


なるべく来ないでほしい。緊張するから。


 「またね、エリシア」


そう言って踵を返そうとしたベイロンは何か思い出したかのように再びこちらを振り向く。


 「ねえ、エリシア。君は何でそこまで必死なのかい?」


どういう意味だ。ちょっとベイロンの目の色が怖い。先までとは全く別人のようだ。優しいお兄様どこ行ったの?どうするよ、これ。ここはどう答えればいいのか。いや、ここで変に考え込むのも可笑しいかもしれない。私は3歳の子供だから。


 「私は母様の顔を知りません」


全く脈絡のない返事にベイロンはちょっとキョトンとした顔になる。


 「皇帝陛下には、父上には一度も会ったことがありません」


ベイロンは何も言わない。顔色を変えずに聞いているだけだ。


 「自分の身は自分で守るしかないと思います」


 「…そう、か」


ベイロンがばつの悪い顔になる。彼の雰囲気が元に戻ったような気がする。今のは何だったのだろう。何か探りを入れた?こんな幼気な可愛い妹に?これはちょっと意地悪してもいいんじゃない?


 「それともお兄様」


躊躇いと戸惑いと恥じらいを混ぜ合わせた上目遣いを一発装填!本日二発目!


 「お兄様が、エリシアのこと守ってくださいますか?」


ベイロンが目を反らす。あれ?外した?やはり、あざとい?わざとらしい?うむ、この技は封印した方がいいかもしれない。ベイロンは何もなかったかのような顔で私に向き直り


 「まあ、君がそう望むならね。では、今日はこれで失礼するよ。じゃあね」


ああ、嵐が過ぎてゆく。やっと休める。全身痛い。今日はもう寝る!


 「エリシア様」


 「なに、リュエル」


 「お見事です」


 「はい?」


リュエルからの謎のお見事をもらった。何故?

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