ありさ
僕は媚びるのが得意だ。
しかし媚びるのはなにか得をするためでは無い。
これ以上イジメを受けないためだ。
例えば殴られてる最中に「すいません許してください、何でもしますから!」と言えば、僕をイジメている連中はひとしきり笑い、一発派手に殴って撤退していく。
……これは媚びてると言うのだろうか?
まあいい。
話したいのはここからで今までのは前座。
媚びて連中がいなくなった後、ほぼ必ずありさが近くにいて、僕を支えてくれるのだ。
今の様に。
「平戸くん大丈夫?」
こうやって毎回心配してくれて、本当に心が救われる。
「ちょっとじっとしててね」
先程踏まれた際に下敷きになって出た鼻血をハンカチで拭き取ろうとしてくれる。
それを僕は顔を振って避けた。
「っつ、やめて、もし誰かに見られたら安西達に伝わって面倒なことになる」
「……平戸くんが今顔ブンって振って逃げたせいで鼻血が私のワイシャツに飛び散ったんだけど?」
「え、あっ、ごめ____」
謝るために振り返った瞬間だった。
「スキあり〜」
「むぐぅ!!」
鼻にハンカチを押し当てられてた。
「うん、鼻血は止まってるみたいだね!」
「んんんーむぐむぐ……ぷはぁ」
「よし! 全然量は出てなかったから綺麗に拭き取れた!」
「なっ、どうして!?」
「大丈夫よ〜誰も見てないし!」
「た、たしかにその理由もあったけどありさのハンカチも汚れちゃうじゃん!」
「じー」
「ど、どうしたのじっと見つめて」
「いやぁ、やっと元気な感じになってくれたなぁって!(平戸くんかわいい!!!)」
っ!!!
「別にハンカチ1つなんてどうでもいいけど鼻血を出してる人と一緒に歩いてる方が問題じゃないかな?」
「うぅぅ……とにかくごめん、ワイシャツも汚しちゃったし」
「いいのよこのくらい! (一生家宝にするけど!!!)」
なんでありさはワイシャツが駄目になったのにこんなに笑顔なんだろう?
「それより本当に大丈夫なの?」
いつものように僕を心配してくれる。
とても嬉しいことだ。
だけど、申し訳なさも相まって、ありさにそう思わせているということが、辛く、惨めになる……。
「大丈夫、いつもどうりだから……」
いや……今日は本当にいつもどうりだったのだろうか。高校生になっても割と田舎なせいでクラス、学年中心メンバーは基本決まっている。
その中に留年生の安西が加わった。
最初のうちは普段と変わらなかった。ただ単にパシられたり、軽い嫌がらせを受けたり、多少殴たれたり。
でも今日は違った。殴られ、踏まれて、蹴られて、廊下じゃやりずらいからって外にまで行こうとした。
もしかしたら、あのまま……。
「……ありがとう」
「……そうね、どういたしまして、とは言わない」
「え?」
「現状をどうにかしない限りまた同じことが起きるから」
それもそうだ。
またあの痛みを……。
「だからもうやられないようにしましょ!」
「どうやって?」
「助けてもらうのよ! 光くんに!」




