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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

野外病院からの信号

作者: しいたけ

 医療の心得があったばかりに、彼女は大きくため息をつくこととなった。肩に食い込む大きな荷物を括った紐がより一層後悔を加速させる。一歩踏み出す度に瑞々しい草木から水気が滴り、衣服へと染みていく。


 彼女等が進むは未開の奥地。目的は墜落した旅客機の捜索及びその手掛かり、運が良ければ生存者の救出にも当たるだろう。毒々しい生き物や植物に気を付けながら、彼女は隊の最後尾を歩いていた。


 ――ガラガラガラ!!!!


「来るな! 地滑りだ!!」


 最前列から聞こえる悲鳴と怒号、そして土音。呑み込まれた隊員を助けようとした隊員が次々と地滑りに吞まれていく。


 隊の約半数が犠牲となり、その内の半分は吞まれたまま何処かへと消えてしまった……。彼女は辛うじて助かった隊員の治療へと当たった。骨を折った者、指が潰れた者、四肢を欠いた者。大小様々な容態に一刻を争う事態へと発展した!


 無事な隊員がテントを張り、簡易的な野外病院を設置する。医療道具と見るに堪えない怪我人をテントへと運び、兎に角懸命な処置を施した。隊員38名の内10人が行方不明。重傷6名軽傷4名の大事故となってしまった……。



 彼女が治療に当たっている間、地滑りに吞まれたままの行方不明者の捜索も行われた。地滑りは長く続いており、まるで川か歩く歩道の様に地面が流れているのであった。だが、幾ら捜索しても誰一人見付かることは無かった。


 隊長すら犠牲となり、隊を纏めているのは若き副隊長だ。彼はまず本部へ救援信号を送った。早ければ明日にでも救援ヘリがやってくる事だろう。痛みで眠れぬ隊員の呻き声だけが隊員達の夜に浸食する。彼女は彼等の傍を離れる事無く手当てに従事した。




 次の日、座ったまま寝てしまった彼女が目を覚ますと異変を察知した。重傷者が一人の姿が無く血が滴った跡が点々とテントの外へと続いていたのだ。


 一人では外に出られる筈は無い。何故なら彼は両足を骨折した上に右足首から下を失っているからだ!


 彼女は慌てて他の患者の様子を見た。そして唯一居なくなった彼を探してテントの外へと出た。慌てた様子で飛び出した彼女を見つけた見張りの隊員は彼女から事情を聞くと一緒に周囲の捜索に当たった。見張りの隊員もテントから出て行く人は見ていない。まして怪我人が出て来たならばすぐにでも気が付くだろう。


 血の跡はテントから離れ辛うじて歩ける道の様な場所へ続いており、二人が血の跡を追うとそこには肩からガッツリと上半身を失った隊員が血溜まりの中冷たくなっていた。足には彼女が手当てした跡があり、間違いなく探していた彼であった……。


 骨は見えず、まるで大きな獣に骨ごと齧られた様な有様だった。急いで副隊長へと報せると、周囲に警戒網が敷かれた。と言っても警戒に動けるのは僅かな人数だ。何か在れば信号弾で報せる程度しか出来ない。



 昼になっても救援ヘリが来ることは無かった。その間にも重傷者の具合は少しずつ悪くなるばかりだ。傷口から感染し高熱にうなされる者も現れた。


 結局夜になってもヘリは現れず、副隊長はもう一度救援信号を送った。その日はテントの周りにかがり火が点けられ、見張りも3人に増やし警戒に当たった。




 しかし次の日朝、またしても重傷患者の姿が一人消えていた。彼もまた一人では外に出られるはずの無い状態だったにも関わらず、見張りは彼が出て行く姿を見ていない。


 そして、昨日見つけた場所と同じ所で遺体を発見する事となった……。今度は頭からゴッソリと心臓の辺りまで丸く齧られた様な惨状で、この辺りに居る謎の生物の仕業と思われる惨劇に隊員達は自然と恐怖に駆られた。



 救援ヘリを待つ間、動ける者は周囲の探索を行い墜落した飛行機や謎の生物の手掛かりを追ったが、得られる物は無く疲弊が募るばかりであった。


 幾ら待っても救援ヘリは来ることは無く、その日もキャンプを余儀なく慣れた隊員達。重傷患者の傍らで、彼女は眠れぬ夜を過ごす事となる。



 ―――ピカッ!


 彼の照らすライトには苦悶の表情で眠る怪我人と彼女が照らされた。度重なる疲れから幾ら照らされようとも起きる事は無い様子で、瞼を閉じ静かに寝息を立てていた。


 ―――ガバ……


 彼はその大きな口をテントいっぱいに開くと、呻き声を上げる怪我人を一口で呑み込み、モゴモゴと口の中で動くのを両手で押さえ静かにテントを後にした。


 いつもの場所で獲物を吐き出す。ヨダレに塗れ痺れたように動けなくなった隊員を、彼は鋭い歯を剥き出しにしてガチガチと鳴らすと大きな口を開けた!!


 ―――ブシュゥゥゥ!!


 噛み千切った痕から盛大に血が噴き出し彼の顔を朱に染める。彼は満足そうな顔で隊員の体を咀嚼し呑み込む。そして戻ろうと踵を返したその時―――


 ―――バッ!!


 白く眩しい灯りが彼を取り囲む! その顔は血に塗れており歯は形が整っておらずギザギザと不揃いに並びサメのように幾多にも連なっていた!


 彼女は隊員の形をしたその異形の姿に驚き戸惑い、言葉も出ずに口を手で覆い隠し一歩後ろへと退いた。眩しさに顔を押さえた彼はそのまま闇へと走り去り、それ以降隊員が消える事は無くなったという…………。


 彼の存在、彼の目的、彼の正体、その全てが不明のままで度重なる捜索で見付かった旅客機からは、食い荒らされ腐敗した犠牲者が大量に見付かった……と報道される事無く『全員死亡』とだけ伝えられた―――

読んで頂きましてありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 二重遭難確実で救援隊が送られるのが先送りされそうな天候でも救助を強行した事と怪生物と当局の関係も勘繰れますし、洋物のホラーを読んでいる様な感じでした。 怪生物の正体を当局は把握している感じで…
[良い点] 映画にして貰いたいようなダイナミックな作品でした! (≧∇≦)b
[一言] 正体がわからないオチと無限ループオチが個人的には一番怖いと思ってます。 ナースコールも怖かった……
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