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神の箱庭・幻想特区  作者: 冬空星屑
一章 幻想特区
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第二話 呼び出し


 始業式が終わり、明日にある一年との対面式について説明がされた後、体育館を離れた。

 コートの汚れとビャクの血糊は、汚染(クリーン)の奇跡で綺麗にした。

 入学式は昨日行っているらしいので、今日から高等部と大学部の全学年が揃うことになる。

 クラスを確認すると――高校二年一組の出席番号十番だった――僕は、すぐに自分の教室へ向かった。

 廊下側から二列目の最後尾に座ると、前の席に座っている男が話しかけてきた。


「よお、冥夜。去年同様、今年もよろしく」

「ああ、よろしく、竜也」


 時沢竜也(ときさわ りゅうや)

 黒い短髪で顔がわりと整った小柄な奴だ。

 欠点は……影が薄いことか。

 中等部の頃から同じクラスになることが多い。昔からの数少ない友達だ。

 まあ、友人知人なんて作った端からドンドンいなくなるんだが、こいつはLEVEL-6だ。そうそういなくなりはしない。


「そういや、冥夜。朝から新入生を秒殺したらしいな。医務室に運び込まれたらしいぞ?」

「知るか。校章の回復魔法なら致命傷を治せるだろ? それにLEVEL-6とか言っていたからな。生命量もそれ相応のはずだろ」

「まあそうだけどよ。あのアリスベルって女の子な、『二色双刃(オッド・ブレイズ)』って二つ名でな。それなりの強さで、しかもあのソードラスのご令嬢だぜ?」


 へぇ、それなりの強さね。ビャクに任せきりで分からなかったな。

 魔剣には興味があったが、他はたいしたことなさそうに見えたんだが。


「本当に強いのか?」

「ああ、もちろんだ。かの『水の聖女』の妹にして、今年の一年の主席だからな。

 トトカルチョもそれなりの倍率だったな。

 俺は、お前に全財産賭けたから大儲けだけどな」

「ふーん」

「興味ないのか? 珍しいことこの上ない『魔眼』持ちの魔剣使いだぞ?」

「そういやオッド・アイだった気がしなくもないが……。使わなきゃ意味ないだろ。魔剣の効果も見てないしな」


 『魔眼』は確かに珍しいが、『魔剣』のような『魔法武具』は熟練の鍛冶師や錬金術士なら作れないこともない。実際に僕は作れるし。

 見た感じ、属性以外はたいしたことなかったな。


「まあ、結論を言うなら、『進化』してなきゃ、僕にとっては全員雑魚だよ」

「それもそうだな。

 て言うか、俺も熟練度はマックスの千に届いてるんだけど、いつになってもレベルアップしねぇ。

 どうなってんだ?」

「まあそこが、LEVEL-7へのレベルアップが『進化』って呼ばれてる由縁の一つだな。

 条件があるんだよ。通常のレベルアップの時以外のな」

「教えろよ。俺たち、友達だよな?」


 竜也が笑顔で迫る。

 竜也が進化か。

 ……うーん。まあ、こいつなら良いか。弱いまんまで友達に死なれても困るしな。


「良いよ。放課後、僕の家に来いよ」

「おお! サンキュー、冥夜!」


 この後も少し話しをしていたのだが、担任の教師が入ってきたので、話しを中断した。


 ◇◇◇


 明日の対面式についての詳しい説明や今学期の説明などを軽く済ますと、ホームルームは終わった。

 始業式当日だと言うのに、二時間目からは通常授業だ。

 ちなみに、火曜日の二時間目は歴史だ。僕は暗記作業は得意なので、歴史のテストはたいてい九割以上だ。


 なぜ、始業式の日から授業が有るのかというと、ここ海上学園都市に存在する冥王学園を含む七つの学園が特殊なカリキュラムを組んでいるからだ。

 午前は一般人たちが通う普通の学校と同じような授業に加え、ダンジョンの知識や魔法関連の授業がある。

 そして午後には、ダンジョン潜行や戦闘訓練、魔法訓練などの実技がある。

 もちろん、レベルや就いている職業によって専攻が変わる。


「……こうして西暦は一九四五年に終わりを告げ、翌年は冥王暦一年になったのです」


 そういえば、歴史の授業中だな。ノートを取らなくては。


「世界に災厄と変革をもたらした、七柱存在するとされる〈大神〉の一柱。

 数多存在する神の中でも四番目の戦闘力を誇る冥王によって作られたのが、ここ海上学園都市です」


 ……海上学園都市。

 隕石と魔物の素材と幻想金属、そして魔法とスキルによって冥王に造られた世界最大の人工島。

 まあ、神に造られたという意味で神工(じんこう)の島と呼ばれたりもする。

 

 別名『迷宮都市』。

 

 存在が確認されたダンジョンの内、九割以上のダンジョンが、ここ『迷宮都市』内、あるいは周辺に存在する。

 ダンジョンから産み出される財宝、素材、遺物。それらによって富む幻想の島。幻想が許される島。

 それが、海上学園都市幻想特区だ。

 魔法やスキルの使用制限が緩められ、生活に平然と使用される。そんな特別な区域なのだ。

 

 話しを戻すが、つまりカリキュラムの半分以上がダンジョンやらかつて不思議現象呼ばわりされた『幻想』に関わることだらけなので、少しでも多く授業をしないとバカばかり生まれてしまうのだ。

 戦闘狂(バカ)とか、魔法大好き(バカ)とか、金の亡者(バカ)とか。

 まあそんな俺も学園で最強になれるくらいにはダンジョンに潜り続けるバカである。


 ◇◇◇


『ピンポンパンポン~』


『お知らせします。二年一組、常夜冥夜君。二年一組、常夜冥夜君。至急、生徒会室までお越しください。繰り返します。二年一組、…………』



 三時間目の数学が終わって少しすると、生徒会から呼び出しをくらった。

 またか……。


「おい、冥夜。呼び出しだぞー」

「ああ。分かってる」


 机から動かなかった僕に竜也が呼び掛けてくれた。

 分かってる。分かってるけど、また生徒会室に行くのか……。


「面倒臭い……」

「おいおい。行かないと、さらに怒られるぞ」

「怒られるの前提なのな。

 何もしてないぞ、僕は」


 正直、身に覚えがない。


「いやいや。お前、決闘とはいえ、毎回相手の胸に風穴開けてるだろ?

 あれが咎められてるんだからな?」

「『エリア・エクスヒール』で完治するだろ?」

「そういう問題じゃねぇから!」


 ……え? 完治するなら良くね?

 何故か突っ込みを入れる竜也に、思ったことをそのまま伝えた。


「いや、完治するなら良くね?」

「はぁ……」


 ため息をつかれた。それも深いため息を。

 げせん。


「だってさ竜也。決闘だぞ? 決闘と言えば、互いの力とか誇りとか名誉とかの全てをを賭けた殺しあいだぞ?

 まあ、今回は序列の進退くらいしか賭けてないが。

 それでも! 序列一つで、学園での待遇とか、企業からの投資とかが変わる。

 それだけで、資金は増えるし。

 資金が増えれば、装備が充実する。生活費に困らない。

 そうすれば、ダンジョンでの行動に余裕が持てて、焦らない。死ににくくなる。

 死なないってことは、それだけ強くなるってことだ。

 どうだ。風が吹けば桶屋が儲かる。序列が上がれば強くなるっていうだろ?」

「いつになく饒舌だな、おい。

 どんだけ、生徒会室に行きたくないんだ?」

「……生徒会長って苦手なんだよ」

「……まあ、頑張れ」


 はぁ。竜也が哀れみの表情だ。

 はぁ。仕方ない。行くか……。


 僕は諦めて、生徒会室に向かった。


 ああ! 生徒会長に出くわしませんように!

 できれば、風紀委員長にも!







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