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「愚弟よ、貴様の実力を知りたい。表で待っている」
「ちょっと待ってくだっ、……行きやがった」
全く話を聞かない人だ。イルドラード王たちは今日の夕方に帰る予定だが突然、現れて表に来いと言って執務室を出ていった。
「あのお方は自由気ままですね。昨日はルルカ様とご一緒に町で食べ歩きされたそうですよ」
「従者たちの雰囲気を見ているといつものことみたいだなでて、諦めオーラが出ていた。問題児の弟としては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。待たせるわけにもいかないから行ってくる」
「かしこまりました。五体満足で戻って下されば、問題はありません」
五体満足か。イルドラード王ことギルバート・イルドラードは今世の魔術王と呼ばれている。俺も怪物と呼ばれているがそれを超える実力を持っていながら戦術眼に優れており、好敵手であるアイオニオン帝国の侵攻を防いでいた。
「民や奴隷がいきいきと働いておる。労働者に生きる目的を与えられている町は良い町でこれからも発展するであろう。遊びと思っておったが良いと治世を敷いているな」
「かの賢王からそのように評価していただけるとは嬉しい限りです」
訓練場から見える町を背にして、話してきた。イルドラード王国は世界の食料庫と呼ばれており、最下層民である奴隷すらも食べ物に困ることがないとまで言われている。
「余はある王子から相談を受けていた。自分の兄はどの王よりも優れた統率者となれるのにその兄は自分から継承権を返上し、辺境で隠居暮らしをしようとしている。どうしたら、兄を王にできるかと」
「……」
身に覚えというか、ある王子はカマルでその兄なら俺のことだな。あいつはよりにもよって、他国の王しかも、オートスの天敵たるイルドラード王に相談しているんだ。
「余は王子に貴殿の兄君は家族の頼みは断れないはずだ。軍部か内政部に入るように頼み、領地が増えた際に代官や総督に任命すれば、王に近いことさせることが出来るだろうとな。まぁ、まだ続きはあるがそれは秘密だな」
「なるほど。親父もコペルニクスなどの重役たちは私の隠居には渋々ながらも賛成していました。なのに、カマルは私を色々な方法で残るように頼み続け、最終的には賛成していた者たちも次第にカマルを後押し、私が折れるかたちで軍部の所属となりました。
バーラ連合国が侵攻してきたとき、事前の防御計画では占領する計画はありませんでしたがカマルが主力を殲滅することが出来れば、永続的な脅威を排除する為に連合国を占領すると宣言しました。占領後、すぐにアルター部隊の派遣が決まり、私が総督に任命されました。
その後の内政部からの迅速な人員補充や駐屯している軍団への新装備の優先的な配備など、事前に準備されていたような早さでした。カマルは貴方の助言を受け、準備していたのですね」
全てが繋がったような気がする。バーラ連合国に何かしらの情報を流し、オートスに侵攻させたのはイルドラード王の策略だ。理由はわからないがカマルの願いを叶えるためなら動機が弱すぎる。
「王兄が勅令を無視しために王と王兄で対立しており、王が身を守る為に王都に兵が集め国境線が手薄になっているとバーラの方で噂になっていると余は配下の者から聞いた。まぁ、そんな噂を信じてオートスに攻め入ったバーラの首脳部には呆れ、兵士たちには同情した」
勅令を無視とかしてねぇよ。てか、そんな噂を信じて攻めるとかバーラの貴族達は脳みそはどうなってるんだよ。
「まぁ、余が指示を出して噂を流させたのだがな。全ては失った土地を返してもらうためだ」
イルドラード王は悪魔のような笑みをこちらに向けていた。バーラという不確定要素を取り除くために不可侵条約を結んでいるオートスに支配させたのだろう。俺達とバーラはこの人の手の平で踊っていたんだな
「バーラの戦力は数に足らないが後ろを突かれ、民の暮らしを荒らさせるわけにいかないからな。ついでに義弟の願いも叶えられる、一石二鳥だな」
「まんまと我々は踊っていたのですね。今度は領土奪還のために貴方の力にならないといけないのですね」
「まぁ、必要があるかは今からはかるのだがな。雑魚はいらない!」
イルドラード王の周りには多量の魔法陣が浮かんでいた。この量はやばい。打ち消さないと後ろの庁舎が吹き飛ぶ! ガチかよ、こいつ!
「余に貴様の本気を見せてみろ!」