4匹目
駅でチカと会った。チカは歩きながら上機嫌な様子で、多部と付き合うに至った経緯をペラペラと喋った。
「そんで、多部君が『付き合ってくれるんですか?』とか聞いてきて、」
私は彼女の顔を見ることができなかった。喋り続けるチカの声をBGMに考え込んだ。自分はなぜこんな思いをしてるんだろうか?苛ついた。チカにとって1番の親友は間違いなく自分だ。でも、そこに多部がいる。後からのこのこやってきて、私から、唯一の親友を、チカを奪うなんて許せない。いや、それでも、彼氏と友達は違うと論理的な自分が言う。チカは私に真っ先に多部とのことを話したのだから、私はやっぱりチカの1番の親友なんだ。でも、でも…
「ねぇ、どうしたの?」
チカは足元を見つめて歩き続ける私の顔を覗き込んだ。
「具合悪いの?」
チカは本当に心配そうだった。やっぱりチカは優しいのだ、私のことを大切だと思ってると確信できた。
「チカに彼氏ができて、私、嫉妬しちゃうな。」
私はわざとヘラヘラと冗談めかして言った。
「アハハ。ユウも彼氏作りなよ、楽しいよ。」
思っていた反応と違かったが、自分がどんな反応を期待していたのかはわからなかった。
「ねぇ、そうじゃなくて。私、」
言葉を区切って考えた。
私、何を言おうとしてるんだ?多部との交際を諦めさせる言葉なんて思いつかないし、この醜い嫉妬をチカに見せて、軽蔑されたくない。私は何を感じているんだろう。
チカとの出会いが私の心を変えてしまったと、はっきり感じた。
今まで誰とも心を許し合わなくても辛くなかったのに、チカともっと心を通じあわせてお互いにとって何よりも1番になりたい自分がいる。
「私、チカの1番になりたい。」
立ち止まって、声を振り絞って、私はそう言った。チカは不思議そうな顔でこちらを見つめている。私はチカに一歩近づき、手を広げ、抱きしめた。
今まで気づかなかったことがある。チカは胸が大きいのだ。ドキリ、とした。
「え?どういう意味?」
と、チカが笑いながら言った。
「そのままの意味だよ。」
私はいつもより低い声を出した。
「ユウは私の1番の親友だよ。」
私はチカを離して、顔を見つめた。彼女は苦笑いのような表情で何かを考えているふうだった。
「違う、私、多部君よりも1番がいい。」
言いながら、自分が何を言っているのかわからなかった。これってまるで
「私と付き合いたいってこと?」
私の思考より先にチカが答えを出した。困った顔をしていた。
「…わからない。」
私はつぶやいて、うつむいた。二人の間に沈黙が流れた。
「なんか、ごめん。」
私はそう言って、踵を返して家路についた。




