婚約指輪キャンセル
「っっっこぉんの!!っっバカ弟!!ストーカーがバレたんだよバカ!!犯罪者!!バカバカ大馬鹿者がぁぁあ!!」
姉ちゃんの奇声と共に、パリーンと甲高い何かが割れるような音が携帯の向こう側から聞こえた
家に帰ったらサキが居ない!電話も繋がらないと、パニックになった俺が勢いで電話した相手にそう言われ、昨日の事を言う勇気も無くなり、会話にならず通話を切った。
サキが居なくなってしまった。
ああぁ、嫌だったんだ!昨日の事!!
謝らなきゃ!!
サキに、心から謝罪をしなきゃ!!
でも、どうやっても連絡はとれず
心にぽっかり穴が空いた。
☆
「予約されてから一年経ちますが...」と、気の毒そうな声を上手に被せて電話してきた、ジュエリー専門店に、キャンセルを伝えた
あれから一年か...我ながらあの時の自分を呪いたいぐらいであるが、過去の自分の過ちを真摯に受け止めなければならない。
サキに、もう会う資格なんてない。サキの事を考える資格もない。ないのだ。なにひとつ。
思考を現実に戻し、姪っ子の誕生日祝いを買いに、慣れない大型ショッピングセンターへと足を運んだ時
「あれ?有田センセ?」
「あら!本当だ!やだっ偶然ですねー!」
「....、桜井!と、お母さん!どうも、ご無沙汰してます!」
一年前、6年1組の担任だった時の生徒と偶然会った。中学生になった彼女は、一年しか経ってないのに何処か大人びて見える
「別人かと思った。ハッ、何、センセどうしたの?暗くなった?例のカノ...痛っ!!」
「こら!真理子!失礼な事言わないの!!今のアンタが此処に居られるのも有田先生のお陰なんでしょ!
...あイタッ!何よ?!痛い痛い!!」
「ははは、変わらないな、桜井。お母さんも」
お互いポカポカと殴り合う姿を見ると、家庭訪問での光景が蘇る。あの時も、こんな感じだったなぁなんて懐かしんでいると、ふと矛先が自分に向けられた
「つか、もしかしなくても、有田センセ、抽選外れたんじゃね?彼氏のくせに!ウケー!」
「ん?」
「だから、私、当たった人間だから!ザマ!」
「いや、ごめん桜井。話見えないし、会話も最後が何言ってるのかわからないよ。」
「真理子は本当にバカね。抽選当たらなくてもサキ先生の彼氏なんだからいつでもサインぐらいもらえるわよ。
ほほほほ。マセガキでごめんなさいね?誰に似たのかしら」
ベチン!とおでこにデコピンを食らった桜井を哀れかけて、思考が戻る。
......今、なんて