通り魔:3
女は何かに憑かれたかの様な足取りでフラフラと公園に入って行った。
公園の真ん中で一旦脚を止めたものの、すぐに脚を早めて奥の植え込みに飛び込んで行った。自分から人気の無い所に飛び込んでくれるとは好都合だ。
あそこなら人目に付かずに俺の欲望を発揮出来るだろう。可能なら半死半生の状態にして夜中までここで隠匿してから住まいに運び込む。成功したら、より時間を掛けてなぶり殺す事も可能だろう。
万が一死んでしまっても、それはそれでお楽しみもある。
切り裂きジャック、エド・ゲイン、アンドレイ・チカチーロ、ジェフリー・ダーマー、佐川某、少年ナントカ……メディアの中でしか知らなかった先達の秘蹟の世界に、ついに俺も脚を踏み入れる事が出来るのだ。
俺は期待に胸を躍らせながら、女の後を音も無く付けて行った。植え込みの一番奥で女は足を止めると、周りを確かめるかの様にそこで一回転したので、慌てて茂みに身を隠した。
……どうやら気付かれなかった様だ。女はマスクとサングラスを外してコートのポケットに入れると、今度はそのコートを脱いで全裸になった。
日陰の暗がりの中で、女の裸身は眩いばかりの白い輝きを発していた。女はコートを潅木に引っ掛けると帽子をその上に乗せた……俺には気付いてる様子は無い。
チャンスだ。一気に飛び掛って、まずは背中に一突きして逃げられない様にしよう。そして、その勢いで押し倒してすぐに口を塞ぐ。そして直ぐに縛り上げるか、脚の腱を断つ……思い立ったらスグに行動するのが肝要だ。俺はナイフを構えて女の背後に一気に飛び掛かった。
だが、女は後ろを振り返る事もしないで俺の一撃を易々とかわした。 何!? と思う間も無く、俺はバランスを崩してつんのめって転んでしまった。慌てて体制を立て直してナイフを構えたものの、次の瞬間には女の顔が目の前にあって(思った通りの綺麗な顔だ)、俺は顔面に女の思いの外の強烈なパンチを食らってまた地面に叩きつけられた。
おかしい。目の前の女は気が弱そうな質で、こんな乱暴には慣れていないのは怯えた様な表情からも明らかだ。それがまるで何かに操られているかの様に、躊躇の無い動きで俺に蹴りを叩き込み、転倒した所に圧し掛かって俺の顔に石を握り込んだ拳を何度も浴びせて来る。
俺の顔からサングラスが吹き飛んで視界がクリアになった。女の顔はどこかで見たような気がするが思い出せない。だが、今はそれどころでは無い。さっき蹴りを入れられた時に、肝心なナイフを取り落としてしまった。何とか反撃をしないと、我が身が危ない。
俺はこっそりと尻ポケットにあるポケットナイフに手を伸ばした。だが次の瞬間、女に腕を噛み付かれてポケットナイフまで落としてしまった。
何故解った!? 女には見えて無いと思っていたのに!?
だが、もうどうでもいい事だった。女はいつの間にか拾っていた俺のナイフを思いっきり脇腹に突き立てて来た。
激痛に身をよじった瞬間に女は逆に俺に圧し掛かり、ものすごい勢いで俺の顔と言わず体と言わず、猛烈にナイフを突き立てて来た。
身を護ろうとして手をつき出したが、たちまち指を何本か切り飛ばされてしまった。 悲鳴を上げて手を引っ込めた隙に、更にナイフが滅茶苦茶に体中に入って来る。俺は全身に激痛を感じながらも、ある種の奇妙な快感を感じていた。
それは、排泄の感覚にも通じる身体から何かが抜け出て行く快感……痛みは既に無く、全身から血が抜けて行く感触と、魂が身体から抜け出て行く感触を覚え……
俺は人生最後にして最高の射精をした。