通り魔:2
俺はこの街で最後の狩りを行うべく、街の裏通りを徘徊していた。
この町ではこれで終わりにしないといけない。ならば隣町に足を伸ばして獲物を狩るか……いや、それでは移動中に足が付く。思い切って遠方に引っ越すのも良いかもしれない。
いや、問題はそれだけじゃ無い……
最早、女を切りつけて血を見るだけでは飽き足らない。
俺が本当にやりたいのは、一人の女を念入りにいたぶって、切り刻み、解体すること……
我慢していたが限界が近そうだ……俺は以前同棲していた女の事を思い出した。決して美人じゃなかったが、俺の性癖を受け止めてくれたいい女だった……名前はなんだったかもう思い出せない。SM系の出会いサイトで知り合って、何度か付き合う内に俺の住まいで一緒に暮らしていた。思えばあの女と暮らしていた頃が一番幸せな時期だった。
だが、アイツは俺のエスカレートする性癖に耐えられずに逃げ出してしまった。そして俺は欲望の掃け口が無くなり、遂にはこんな事をしてしまっている。
どう考えても正気じゃ無い……それは解ってる。だが、衝動が止まらないのだ。
初めて女を切りつけた時……あれはこの近くの郵便局辺りの人気の無い夜道だった。最初に斬りつけ損ねて抵抗されてしまい、俺のナイフを防ごうとして突き出した手や、薄着の身体に何度も何度も切り付けてしまって、ちょっとだけ血を見るつもりが結果として全身を血まみれにしてしまった。
街灯の真っ白な光に照らされた女の肌に流れる真っ赤な血を見て、俺は今までのプレイでは得られなかった満足と快感を知ってしまった。
……だが、やりすぎた。
あの時、全身を血まみれにして命乞いする女を見下ろして、俺は無防備の女を血まみれにする“その先”の行為を思い描いてしまい、瞬時にその妄想に取り憑かれてしまった。
女の啜り泣く声と血の匂いに興奮して、そのまま妄想を実行に移そうとした時、通行人の気配を感じたので慌てて逃げざるを得なかった。まぁ、そのまま道端であの女を殺して解体してしまったら、すぐに見つかって今頃はまた檻の中だっただろう。
その後、女を襲う事自体は悪運に恵まれて、捕まる事無くここまで続けてこれた。無防備な女を切りつける感触を手で確かめ、流れる血を見る事で性的な興奮は確かに得られたが、あの殺人衝動を満たせない事にフラストレーションを感じざるを得なかった。
いっその事、夜道で攫って自宅でバラそうかとも思ったが、今の住まいは十分なプライバシーが確保出来ない。連れ込む段階で声を上げられたりしたら、そこで終わりだ。
ならば、もう少し人目の付かない場所に引っ越す方がいいだろう。そろそろこの辺りにも捜査の手が延びるだろう。そうなる前に遠くへ離れる必要もある。
だから、今夜が最後の狩りだ。この町では血を見るだけで我慢して、どこか遠くで欲望を開放するのだ。
だが……我慢できない。今すぐにでも血が、臓物が、刳り貫かれた眼窩が見たい。
だめだ。今は我慢しろ。……でも、見たい。
頭の中で欲望と理性がグルグル廻ってワケが判らなくなって来た時、遠くを一人の女が急ぎ足で公園に向かっているのが見えた。
この暑いのにコートなんか着て、帽子にサングラス、ご丁寧にマスクなんかしてどんな女なのか全然解らない。獲物としては丁度いいが、まだ日も高いしスルーしようとした時、女のコートが風で一瞬はだけてその下から唐突に現われた真っ白な裸身が俺の網膜と脳髄一杯に焼き付いてしまった。
見間違いか? いや、確かにコートの下は裸だった。あの豊かな乳房も、少し肉の付いた柔らかそうな腹も、ガーターとストッキングのみの下着も、ブーツを履いた肉付きの良い脚も、その脚の付け根の茂みも、何よりも今まで見た中で最上の白い肌も、この暑さが見せる幻覚等では有り得なかった。
血と臓物で彩られた赤黒い妄想と、たった今この目で見た裸身の肌の白が、グルグルと頭の中で渦を巻いて混ざり合う。
俺の理性は妄想の渦に呑みこまれて消えた。
この公園は昼間でも人気が全く無い処だ。植え込みも多いし、声を上げられない様に素早くやらなければならない……悲鳴が聞けないが、それは妥協せざるを得ないだろう。
俺はジャケットの内側に隠したナイフを確認すると、ゆっくりと女の後を付けて公園へ入って行った。




