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エキ・者・カタリ  作者: すかーれっとしゅーと
9/12

平和を冠する駅は多いけど<後編>

本日2話目の投稿です。

北九州市。

横浜市、名古屋市、京都市、大阪市に次ぐ、5番目に政令指定都市になった都市である。

今でこそ後進の政令市に抜かされ、人口も減少気味ではあるが、福岡県第2の都市。

そして、九州地方の中で第2の都市でもあるこの都市は、5つの都市の合併により生まれた。

小倉市、八幡市、戸畑市、門司市、若松市。そのまま区名になって、今も名称は残っている。

最近は「銃声の聞こえる街」「ポンの転がる街」など、不名誉な呼び方もあるとかないとか。

ちなみに「ポン」とは、お犬様の落とし物のことである。


★★★


JR小倉駅の南西側にある魚町商店街。

そこから、少し外れたところにある喫茶・美智屋。

その喫茶店の個室では、女性3人が食事を取っていた。

はずなのだが、話声がしたかと思えば、叫び声、そして鼻をすする音・・・

周りから見ていると、いったい何が起きているのか、と心配になりそうである。


「落ち着いた?」

緩いパーマの女性・亜美が、茶髪のセミロングの女性・里美に問いかける。

里美は先程まで、テーブルに伏せて鼻を啜っていた。目が赤くなっている。

今は心の整理がついたのか、顔を上げて静かに縦に首を振った。

里美の頭を撫で続けていたポニーテールの女性・早苗は、その様子を見て手を引っ込める。

「これから、何をしたいとか、思いつきましたか?」

早苗の問いに、里美は首を横に振る。

「とりあえず、彼にメールをするにしても、このままでは返ってこないと思うよ」

亜美の言葉に早苗も頷く。それを聞いて、里美は再びふさぎこもうとする。

「『ごめんね』だけでは、相手も『だからどうした、今更謝られても』って気になります」

早苗が里美の左側に移動して訴えかける。

「・・・そうなの・・・?」

里美はテーブルに伏せながら、顔だけ左に向けて早苗を見る。

「はい。なので、メールで今日の顛末をしっかり伝えましょう」

その言葉を受けて、里美は体を起こした。両手でスマホを持ち、画面を注視する。

その彼女の左に早苗、右に亜美が陣取り、2人も彼女のスマホを注視する。

そして3人でどんな文章を送ればいいのか、考える。

しばらくすると、里美が思いついたように文字を打ち始める。

打ち終わると、左右の友人の顔を見た。友人たちは、縦に首を振る。

チャラン、と音がして、里美は溜息をつく。

「よし!送信したね!じゃあ、食事を楽しもう!」

亜美がそう言って、メニューを取り出す。

「アタシが、好きな物、奢っちゃうんだから!」

「・・・ありがとう、亜美ちゃん・・・」

「亜美、元々アナタの奢りだから変わらないと思うのですが」

「あー!そうだった!」

「でも・・・ありがとね、亜美ちゃん」

3人の女性は、追加で注文をしていく。

今までとは違う、憑き物が取れたような雰囲気で食事会を楽しんだ。

全部奢ることが決定している亜美は、金額を気にしていたものの、途中からは吹っ切れたようだ。

友人との久しぶりの再会と、九州初上陸おめでとー会に変更していったらしい。


「ところで里美。1つ疑問点があるのですが」

「何かな、早苗ちゃん」

「あのですね、彼のところに行って、あわよくば同棲まで考えていた、って言ってましたよね?」

「うん、そのつもりだったよ」

「あの、荷物とか着替えとかはどうするつもりだったのですか?」

早苗の疑問点。博多の彼のところに行くとしては、里美の荷物が少ないこと。

ハンドバックはある。それに入るのはせいぜい、スマホの他、簡単なエチケットグッズくらいである。

しかし、宿泊、ましてやそのまま居座るのであれば、キャリーバッグでも無いとおかしいのでは、と。

「あーキャリーバッグに着替え、化粧品など入れて、ケイくんの家に送ったよ」

等の里美はそのように笑顔で答える。

それを聞いた早苗と亜美は、残念な娘を見るような目で彼女を見つめる。

「もし、同棲を許してもらえなかった場合は、どうするつもりだったの?」

「あ・・・。・・・送り返してもらっただろうから大丈夫」

亜美の問いには、少し間を空けて答えた里美。2人は確信する。彼女は考えてなかったな、と。

「今回みたいに、連絡が取れないときはどうするつもりだったのですか?」

早苗は、少し意地悪な質問をしてみた。

「ケイくんは優しいから、それでも送り返してくれるよ」

笑顔でそう答える里美に、早苗は無言で頭を撫でながら、溜息をつくのであった。


★★★


時刻は20時半。

楽しい食事会が終わり、外はすっかり夜。

亜美は空っぽになった財布とレシートを見て、呆然としている。

そんな彼女は放っておいて、早苗は小倉駅方面に向けて歩き出す。

歩き出したのだが、亜美はともかく、里美も立ち止まっていた。


「どうしたのですか」

私は、里美に声をかけました。

その声が聞こえているのか、いないのか、里美は真剣にスマホを見ています。

私は、彼女の肩口から覗き込みます。

彼女の方が私よりも低いので、簡単に覗くことができます。メール画面でした。

そうですか、彼氏さんから返事があったようですね。

「亜美」

私は、近くで呆然としているもう1人の友人に声をかけました。

友人も彼女の様子に気づき、耳打ちしてきます。

「・・・残念女子お泊り会は、ナシになりそうだね」

亜美は私から離れると、嬉しそうに彼女を見つめています。

残念女子という名称には、少し不服ですが・・・いい方向に行ってほしいですね。

2人で里美の様子を見守る。

彼女は一生懸命メールを打っているようだ。電話の方が早いのでは、とも思ってしまいます。

まだ、彼の方が電話ができない環境なのでしょうか。

「あーあ、アタシも彼がほしい!」

「里美を見てたらいろいろありそうですが、それでも欲しいですか?」

「里美よりは上手く、話術で操作できると思うよー」

うーん、確かに里美よりは、正直で裏表のない亜美は、変なことにはならないでしょうけど。

私は、まだ欲しいと思いません。店長との会話で満足・・・いえ、疲れるので、いらないです。


「どうなりました?」

メールを打ち終わったところを見計らって、里美に声をかけます。

「うん、メールがあったよ」

彼女は笑顔で答えてきました。私の横で、亜美もうんうんと頷いています。

「博多まで来いよって。嬉しい」

私のそばに寄ってきて、抱き着いてきました。シトラスの香りがほのかにします。

「よかったですね」

私も抱き返します。1人残された亜美だけが不服そうに見てきます。

そんな目線は放っておいて、里美の頭を撫でます。かわいいんですよね、里美も。

これ以上、亜美を放置すると、不機嫌になるので、これくらいにして。

「今から博多に向かうのでしょうか?」

「うん、博多駅周辺で待っててくれるって」

亜美にもみくちゃにされながら、里美が嬉しそうに答えてくれます。

それなら、早く小倉駅に行かないといけませんね。

小倉駅から新幹線で直で行ける博多駅。

時刻表を気にしない里美は、ただ、かわいいだけなのですが、今の場合は、最終が迫っています。

無事に送り届けないと。これ以上迷われると、もっとこじれます。

入場券を買う必要があるかもしれませんね。

「では、小倉駅に行きましょう、亜美、その辺でいいでしょう」

そう言って私は、里美から亜美を引きはがします。

放って置くと、どれだけ時間が経つかわかりませんので。

引きはがされた亜美は、スマホで調べものをしていました。

彼女のことです、すでに新幹線の時刻を調べているということに間違いありません。

私たちは、小倉駅に向かって歩いていきます。かわいいお嬢様を送り届けるために。


★★★


北九州モノレール沿いの大通り。

女性3人は、小倉駅に向かって歩いていく。

3人とも笑顔で、そして力強く。

そんな姿をも、小倉の街は見守っている。

平和通編も含めて小倉編、ガールズサイドは終わりです。

・・・ようやく彼の方を書ける・・・

異性の気持ち、会話を書くのは本当に難しかったです。

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