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エキ・者・カタリ  作者: すかーれっとしゅーと
11/12

辛子明太子のようにホットな駅<中編>

博多駅のはずなのに、小倉駅から始まるという。

それでも博多駅「中編」です。ごめんあそばせ。

夜のJR小倉駅。

相も変わらず改札口からは、旅行先から帰って来るひとが途絶えない。

自動改札機がICカードを読み込む音が、定期的に鳴り続ける。

改札前の広場では、何かイベントがあったのだろうか。

テントや机、イスを片付けるひとたちが忙しく動いている。

そんな祭りの後の片隅。自動切符販売機の前に、3人の女性が集まっていた。


★★★


「指定席にしないんだ」

「うん。すぐだからね」

亜美ちゃんの言葉に私は答える。

本当は、指定席にしたい。したいけど、正直出費が厳しい。

名古屋から博多までの指定席2枚買って、途中下車は相当辛い。

そして、小倉から博多までの切符を買っている私。バカみたい。

お金については、バイトで貯めたものがあるので、余裕があったはずなのに。

残りが心もとない。

本来は、ケイくんに返してもらうつもりだった。

一緒に帰ることになれば、そのまま切符を使えただろうし、使わなくてもキャンセルできたはず。

私だって、それくらいはわかっていたから、こんな計画を立てた。

それがこんなことになるなんて・・・ホントに自分をイヤになる。

だったら普通列車に乗ればいいのでは、と、これも亜美ちゃんに言われたけど。

新幹線よりあきらかに時間がかかる。ケイくんをこれ以上待たせたくない。

2110円か。

機械の案内に従って、お札を入れていく。あーあ、私、何やってるんだろ。

自暴自棄に陥りそうなところを堪えて、切符を受け取る。

そっと財布に切符を入れて、2人の大切な友人たちに駆け寄る。

早苗ちゃんはニヤニヤしてる。亜美ちゃんも同じように笑顔。

私の方を見て、2人とも笑っている。私、何か変かな?

「お待たせ」

2人と合流する。

早苗ちゃんは腕を組んでいる。亜美ちゃんは私の後ろに回り込み、抱き着いてくる。

「えーっ?亜美ちゃん!何よー!」

わけがわからないんだけど。早苗ちゃんは相変わらずニヤニヤしてる。

「ねーリミちゃん。幸せそうな顔してー!羨ましいわ!」

「彼からのメールに、どても嬉しいことが書いてあったようですね」

2人とも口々に、私が幸せそうな顔をしていると言ってくる。

そうかな、そうなのかな、私自身はわからないんだけど。

「2人とも、何でそう思うのよ」

「だって、リミちゃんってさ、彼とメールをやり取りした後、ずっと、にこーってしてたから」

「駅に着くまでのしゃべり方が、どんどんはしゃぐ感じになりましたので」

2人の指摘を受けて、ようやく気付く。

そこまで、表情に出てたのかー、実際嬉しかったから、間違ってはないんだけどね。

「で、どんなメールのやり取りがあったの?あったの?」

「私も気になります」

亜美ちゃんが後ろから攻めてくる。普段は気にして来ない早苗ちゃんまでも・・・。

「えーっ!普通だよー。普通」

ウソだ。確かに嬉しいことが書いてあった。

「普通と言うなら、見せてもらってもいいよね!」

亜美ちゃんが食い下がる。しつこいなーもう。

「・・・プライバシー・・・」

「いやいや、リミちゃんにプライバシーなんてないから」

「・・・そんなこと言っても、見せないから」

「えーっ!リミちゃん、冷たい。クスン」

「泣きマネしても、ダーメ」

本当にしつこい。後ろに抱き着いている亜美を引きはがす。

「まあまあ、亜美。あきらめましょう、残念ですが」

「残念って・・・早苗ちゃんまでー。もう!」

早苗ちゃんが止めてくれて助かった。亜美ちゃんが本気で来ると断れないから。

「そろそろ行った方がいいでしょう、時間がありません」

早苗ちゃんが電光掲示板を指す。

21時18分発のさくら。あと8分くらいか。

「では、そろそろ行くね。そして今日はありがとう」

時刻を確認した私は、友人たちに別れとお礼を告げる。

「こちらこそ、久しぶりに里美に会えて嬉しかったので、良しとします」

早苗ちゃんは、笑顔でそう答えてくれる。

「ねー、今度、博多に遊びに行っていーい?」

「うん、今度一緒に遊ぼうねー!」

亜美ちゃんの問いかけに、私は元気にそう答える。

あれ?亜美ちゃんがガッツポーズをしているのは何でなんだろう・・・

そう疑問に思いながら、改札口に向かう。切符を通す。

私は、名探偵アニメをモチーフにした喫茶店を横に、エスカレーターを上っていく。

スマホを取り出し、ケイくんから届いたメール画面を見る。



From:恵吾

Sub:Re:ごめんね


むかついた。許さん。




俺の家に来てくれるなら許す。

いつ名古屋に帰るつもりなんだ?

俺としては、ずっといてくれてもかまわない。

それは無理だろうな、ごめん、無理言った。


今、小倉?

今日、こっちにくるのか?





うん、うん。

会ったら、怒られるかもしれないけど。

「ずっといてくれてもかまわない」だって。

この言葉が凄く嬉しい。何度見ても、顔が火照ってくる。

2人には、その様子を見られたのかもしれない。

やはり、誤魔化しは利かないか・・・

そう思いながら、ホームに到着する。12番ホーム。

自由席は1号車から3号車。表示を見て歩く。

そんな中、新幹線が滑り込んできた。それでも歩く。が、間に合いそうにない。

仕方ないので、4号車辺りのドアから乗り込む。そこから1号車方面に向けて歩く。

疲れは感じない。いくらでも歩けるのかもしれない、今のこの気持ちなら。


★★★


JR小倉駅を出発した、さくら573号、鹿児島中央行き。

3号車の窓側席を確保した茶髪のセミロングの女性・斉藤里美。

ずっと、スマホの画面を見て、ニコニコしている。

周りから見ると、不気味であるが、周りのひとは気にしない。

たった16分の新幹線の旅。

彼女は、スマホを見つめたまま、博多駅に到着しそうである。

どうか、九州新幹線は博多が終点ではないので、降り忘れがないように、切に祈りたい。

恵吾けいごのことだから、乗り遅れても、会社の同僚の車でも借りて、迎えに行くだろうけれども。


★★★


JR博多駅

東口にあたる筑紫口ちくしぐち、西口にあたる博多口はかたぐち

その2つの出入口を結ぶように太い通路があり、通路の両脇に改札口が点在している。

さらに九州新幹線開業に合わせて駅ビルを改修して、今では百貨店や映画館なども入居している。

駅の地下には地下鉄があり、福岡市最大の商業地区・天神てんじん、福岡空港、福岡県西部各地にもつながっている。

お土産、名産を販売している店を充実している。

辛子明太子を始め、ひよこ饅頭、通りもん、めんべいなど。

駅ビル周辺には、食事処から居酒屋まで、食も充実している。

豚骨ラーメン、かしわ飯、もつ鍋、水たき、ごまサバなどなど。

中には、福岡市の名産ではないものもあるが、博多周辺には九州中の名産、料理店が集まってくる。

そんなところが福岡・博多の最大の魅力なのかもしれない。


★★★


・・・しかしなぁ、里美のヤツ、いつ出発するんだろうか・・・

メールは来ない。すぐって、いつの新幹線に乗ってくるんだよ。

俺は、心の中で里美に文句を言う。

彼女は、しっかりしているようで、抜けているところがあると思う。

せめて、乗ったよーと、連絡が欲しい。

仕方がないので、筑紫口前の改札口の前で待っている。

先に近くのハンバーガー店や牛丼店で、遅い夕飯を済まそうかとも思った。

しかし、彼女はメールですぐ行くと、連絡してきた。

それなら、待つしかないな。1時間はかからないだろう。

顔を合わせたら、何を言ってやろうか。

声かけられても、無視してやろうか。知らないふりでもしようか。

慌てるだろうか。泣くだろうか。怒るだろうか。

多分、今の俺の表情は、ニヤニヤして気持ち悪いかもしれない。

考えるだけでも楽しい。


いろいろ考えながら、その時間を、俺は待っている。

気を落ち着かせながら。

里美さん、頼むから博多で降りてね。

降り忘れて久留米とか熊本に行ってしまうと・・・話が伸びるー

多分、次回、この2人の話は最終回です。

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