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掌編小説集4 (151話~200話)

方舟

作者: 蹴沢缶九郎

世界が大洪水に見舞われる運命の時まであと数時間と迫っていた方舟の前には、人間達が押し掛けごった返していた。


「自分達だけ助かろうなんてずるいぞ!!」 「そうよ、私達だけでも乗せなさいよ!!」


ノアの一族に向けて人々の勝手な怒声や罵声が浴びせられたが、それでもノアは民衆に言ったのだった。


「すいません皆さん、これ以上もう方舟には乗せられないんです!!」


だが、やはり納得のいかない人々の怒りは収まらない。そんな人だかりをかき分け現れた一人の老人が言った。


「この者達は見捨てればよい。所詮自分の事しか考えられない汚い奴らじゃ。私を乗せなさい」


ノアは老人の言葉に矛盾を感じながらも毅然(きぜん)とした態度を崩さずに言う。


「ごめんなさい、おじいさんでもダメなんです」


「ほっほっほ…。まあわからんでもない。しかし、お主らは私を乗せなければいかんのだ」


老人には何か理由があるのか、余裕があった。だがノアの意志は変わらない。


「ダメなんです!! わかってください!!」


「ふむ、では言おう。実は私は神なんじゃ」


老人のまさかの言葉に、一瞬ノアはドキリとしたが、この状況ではどんな手段を用いてでも方舟に乗り込もうとする輩はいるはずである。そこでノアは神と名乗る老人に言ってみた。


「ではおじいさん、あなたが神様である証拠に、これから起こる洪水を止めてみせてください。あなたが本当の神様ならそれぐらい簡単ですよね?」


ノアの言葉に老人はばつが悪そうに言った。


「申し訳ないがそれは無理だ。洪水を起こすのに力をほとんど使いきってしまっての。しかしこれぐらいなら…」


と、老人は手を合わせると、何やらブツブツ呟いて、合わせていた手を離した。するとそこに綺麗な一輪の花が出現したではないか。


老人は笑いながら聞いた。


「これで信じてもらえたかな?」


「器用な方なんですね。あ、もう時間だ。ごめんなさいおじいさん、それじゃあさよなら」


そう言うとノアは方舟に乗り込み、二度と方舟の入り口が開けられる事はなかった。まさかといった表情の老人は方舟に向かって叫んだ。


「私は本当に神なんじゃー!! 頼む、乗せてくれー!! 自分達だけ助かればいいのかー!!」


それから数時間後、全世界を大洪水が襲い、方舟に乗る事の出来なかった人々、そして神は死に絶えた…。

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