表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/119

九十話

 可愛らしい文字や、まるで絵のような類で記述されたものもあれば、英語で表記されてたり。沢山の人々の手によって書き加えられたものだというのは判明する。滲み出る筆記、字体。記述によっては性格が出るものか、慌ただしい流体文字もあらば、丁寧な、さも定規で引かれたような美文字だったり。中には切り取って貼り付けた部分があったので、転記してでも内容を引き継ぎするように努力するさまが垣間見えた。

 大体において、その個性を読むことができた私は時折こみ上げてくる感情を封じねばならず、苦心する。だが、どうしてこの共感の意を消すことができようか。

 何度も捲られたせいか弱弱しい紙質になってしまっているページを破らないよう、慎重に扱う。落とされた月光に浮かび上がる日本語の羅列を、ただただ読み耽る――――


 ――――やっと、大学受験が終わって。合格したんだ。四月から、新たに入る憧れの大学生になるはずだった。それなのに……この世界に迷い込んでしまった。お父さん、お母さん。ごめん。俺、何も親孝行、できなかった。一人っ子なのに。帰りたいけど、帰れないよ。どうすればいいんだろう。王様も分からないってさ。ごめん、ごめんなさい――――ゆーちゃん。ごめんね。私、どうしようもないね。くだらない喧嘩別れしちゃって。ごめん、ごめんね。すぐ謝れば良かった。そうしたら、こんなにも後悔しなくて済んだのかな。結婚したくない。でもそうしないと駄目なんだって。ゆーちゃん、ゆーちゃんと結婚したかったよ――――陸ちゃんへ。お母さん、変なところに来ちゃったみたい。良くわからないけれど、助けて欲しいんだって。お母さん、頑張るからね。それで、きっと帰るの。日本に。お家に帰るの。頑張るから、負けないで。試験、頑張ってね。お母さんがいなくても、お父さんを支えてあげてね。ちゃんとゴミ、捨てる曜日を間違えないように――――孫も息子も、妻もいるオレがこんな外国にいるなんて。いや、外国、なんだろうか。世界各国風来坊で旅してきたオレには、ここが本当に地球という惑星上の国なのか判別できん。オレ以外にも、何人か日本人が居る形跡があったようだったが、皆死に絶えてしまったようだ。探してみたが見付からない。監視もオレ以外にいないと言い張る。オレは、本当に一人なんだな。家族に会いたい。こんな場所で死にたくない――――おかあさん、どこ? こわいここ、さみしい。――――While there’s life, there’s hope.――――昭和の時代から、皆へ。元気ですか。はは、元気なんてとりようもないですよね。ここ、我々日本人にとっては監獄のような国です。皆が皆、我々を保護してださるんだがよそよそしい。それでいて暴力的であり。親切だし。奴隷という浅ましい法律を大事にしているようで、決して離したくはないという決意表明にも思える。気味の悪い国だ。逃げられるなら逃げた方がいいぞ。ただ、飯の食い扶持ぐらいは与えてくれる国だ、奴隷という檻に閉じ込められたくないのなら逃げ出した方が得策だ。まあ、野たれ死ぬ確率の方が高そうだからお勧めはしないが。初代王、勇者様の日本語、ある意味、達筆過ぎて読めないが学者みたいに翻訳できる人がこの国に来訪されてたらしい。哀れなことにな。彼もまた日本人だったんだろう、奴隷という法律によってがんじがらめに軟禁されてたようだが、研究熱心なお方のようだ、初代王のヒナミキ=バージルの日記を翻訳したんだと。ま、この国のお偉いさんに接収されたそうだが――――遺品。渡されたけど。使えた。面白い。魔法みたい。魔法使いになった気分。血によって反応するみたい。古代の遺物なのかな。わかんない。びっくりしてた。あたしだけが使えたりするのかな、あたしが使うと力が増すみたい――――遺品ワタサレル。使ウガ――――痛イ。何故此処ハ私ヲ迫害スルカ。何ヲスルカ、シラヌ、コノ力ノ使イ方ヲ教エロ等ト言ワレ申候、――――ここ、注釈。旧い日本語(草書)だけど、多分この女性は江戸後期かな。字を書ける時点で教養があるのは間違いないが。子供を産んだばかりで離れ離れにならざるを得ない、その嘆きが書かれているよ。可哀想だね。でも、ワタシたちも哀れだ。子孫を残すよう強要されることが多かったみたいだね……かくいうワタクシもそうだが……厄介な国に来たものだ、大事にしているようで、自由はない……それと、しおり、挟んでおく。ここに、特筆事項、記述しておくから読むに越したことはない。この世界へやってきてしまった同郷の日本人よ、ようこそ外つ国へ――――我々は歓迎する。ただ会うことは叶わんだろうが――――まずは言っておく。日本に帰れるという保証はまったくもって、あり得ない。現在、帰ることができたという可能性さえ存在しない。命を自ら絶つと決意したなら止めはせん。生きる希望を持つというのなら、慰めの言葉と共に、この国で生き残るための規約をお教えしよう。その通りに生きれば、少なくともこの国における生き辛さは半減するだろう――――発見。君、死にたもうなかれ。このノートの後ろに貼り付いてる、その古臭い小冊子がそう。学者先生、というよりは経歴やノートの記述からして教授だろう、教授力作の翻訳本だ。大事にしてくれよ、不本意ながらもやってきてしまった日本人ら、同郷の我々よ……。

 

 故郷の山の景色の話や、食べ物。

友達の話や、親のこと。愛する人や家族のことや、飼っていたペットや服や靴。他、誕生日プレゼントや、仕事のこととか引き継ぎできてないこととか。病気を抱えていたこととか、楽しかった旅行の話や、人生における名言、エピソード。哀しいことや、楽しかったこと。自慢話まで織り込まれており、様々な時代の人々の言葉が、あちこちに散りばめられていた。ノートの上辺にまでびっしりと、端々にまで、大事に書き連ね綴られていたあたり、皆、しっかりと一人一枚というルールを守っているらしく、私は、頬に貼り付く涙の跡を擦りつけながらもくすりと笑った。

 (懐かしい、懐かしい……)

 40年前の日本が脳裏に蘇ってくる。

熱い夏、虫の音や、車の排気音、テレビ、ラジオ、生活音……匂い、声、数多の人々の後ろ姿……。

 ――――紙の匂い、それと材質からして虫に食われぬよう、大事にしていたのが丸わかりである。これほどまでに貴重な資料ともいうべき代物を、何故に私の枕元に置いて姿をくらましたのか。分からない。

 (だが、何らかの意図があるんだろう)

 この日本語の羅列は、数多の、この世界に彷徨ってしまい王にさせられた初代勇者の名前にまでようやくたどり着いた。

 恐らくだが、これこそ、この世界にたどり着いてしまった教授とやらの翻訳の書のようだ。存在自体を奪われていたようだが、何者かがこの教授の書を手に入れたものらしい。この教授の書き綴った初代勇者の書翻訳モノも読んでみる。


 ――――この世界にやってくる日本人の年齢には非常にバラつきがあり、性別による差もなかった。赤ん坊のままやって来る者もおれば若者もいる。自分のような年寄りもいるし、基準というものがない。しいてあげるとするならば、一人。

必ず一人、呼ばれるのが通例らしい。複数は存在しない。

 黒い髪に黒い瞳。

それが第一の条件のようだ。奴隷の基準もソレなんだから、それ以外に逸れる例外はなさそうだ。旧い時代の日本人でさえもこの国に来ていたようだから、年代は逆行しない。一人ずつこの国にやってきているのを鑑みるに、どうやらこの世界の時間が地球に比べてゆっくりとした歳月を経ているのかもしれんと結論付けた。グリニッジ天文台もへったくれもない異世界だからこその、ファンタジーとやらかもしれん。英語を使える人間もいることからの推察だ。義務教育が始まった年代からしてみても、これは非常に特筆すべき注目点だ。そして、その英語で書かれた言葉が自分からして少なくとも100年以上前のことのようだから、辻褄を合わせることができれば、この惑星の天体の動きさえも把握できるかもしれん――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ