六十四話
迎えに来たのは、なんとも偉そうな貴族然とした者たちだった。
今にもヒナミキ=バージル王万歳、なんて言いそうな顔をする彼ら若者は、私を両隣から挟み込み、まるで親の仇のように乱暴に引っ立てようした。
「貴様が金環国バージルを脅かす、大罪人か」
「不法入国の罪、殺人罪、放火、詐欺、強盗……」
「敵国アーディ王国に、貴様の死体と生首を晒してやろうぞ」
これにはさすがの細身君も慌てたようである。彼らが来訪は予定外だったようで、口を開き、諌めようとした細身な彼には目線で制した。
(大丈夫だ)
二の腕をねじり上げられたが、せっかくの死に装束の袖が破れてないし。
ただ、襟ぐりがえらいこと乱れてしまった。
(せっかく綺麗に着付けしてもらったというに)
残念な気持ちも帯に押し込んで整えたいが、彼らは私の死にゆく姿のことなんてどうでもいんだろう、そのまま監禁部屋からもつれた足が出てしまう。背中に回った腕や手をとられてはどうにも手出しができず、歩きづらい和服に気を揉みながらも王城の螺旋階段へとさしかかる。
(……この一歩、一歩、が)
私の、人生の終わりへと近づいている。
足元不注意で転げ落ちぬよう私を捕えて離さない彼ら若者らが、突如として亀のごときゆっくりとした歩みになった。足首から吹き上げてくる冷風が、薄布の白装束を撫で上げていく。
金環国住民らは、元々、名も無き土地と呼ばれる領土の一部を勝手に割譲して建国した、勇ましきギルドらの末裔である。
――――ギルド、とは。
要は、傭兵のこと。かつて、この世界においてギルドは世界中に存在した組織である。ギルド窓口に報酬込みで依頼を頼むと、掲示板に依頼された紙が貼られたり、あるいは、ギルド長と呼ばれる組織のボスが、これと思い定めたギルド所属の傭兵にお願いし、依頼を達成するように頼みこむ。
つまりは、何でも屋、といえるだろう。
実際に遥か昔、実在したそのギルド関係者らが、金環国住民の先祖であるが、なぜそのギルドというシステムが、私の世代では消滅し、失われてしまったのかは不明だ。
……詳しくは、この国の歴史書に滔々と描かれているだろうが、昔の記憶というものは常に正しい情報を精査せねばならぬ編纂作業である。勇者様が仏像化している以上、美化されているのは否めない。玉座へと続く黄金扉のように、この金環国のあちこちにて散文たる断片が見え隠れするのだ、その長い歴史をひも解くのは並大抵なことではあるまい。
(ただ、このままでは……)
王城入り口に到着し、全身を改めて縛られた。恐らくだが、亀甲縛りと呼ばれるものだ。前世を鑑みても生まれて初めての体験であるため、全身が強張る。全力でご遠慮願いたい。が、複数の手が、一歩後ずさる私を追い詰めるのは目に見えていた。若造どもが、私の驚く顔を見てニヤニヤと二ヤついている。
「なんだ、初めてか」
とか言ってるし……。
(お前は初めてじゃないのか……)
驚愕し、つい、感情を表に出してしまったところ、残酷な笑みを湛える彼らに胸の内でため息をつく。
(はあ……)
諦めるしかないが……肌蹴た胸板にも容赦なく食い込むのはいかがなものか。
(……恥ずかしいぞ、想像以上に……)
おまけに、このような状態で手首を後ろに雁字搦めにされた状態にて、馬に乗るよう強要された。無理だ。
騎士である私には馬は手慣れたものであるが、このような状態ではなかなか。仕方なくといった態で兵士ら複数の手によって持ち上げられるや、王城の扉が、大きく開かれた。今まで閉ざされていたという、そう滅多に開かぬ、大扉だ。
(ほお……)
ずいぶんと、私の処刑イベントに力を入れたものである。瞬きを繰り返し、その様相を見守る。付き添いの兵らが促したものらしい、馬鹿騒ぎをするおべっかどもと比べ、粛々と仕事をこなす金環国の兵らの頭上を眺めながら、私はこの金環国に持ち込んでいた愛馬の行く末が気がかりになった。宿に預けっぱなしだから、飼い主である私がこうなってしまい……、処分されてなければいいが。
(もはや馬の心配をする、それどころでは、なくなってしまった……)
明日は我が身どころか、今日は我が身。
ぎぎぎ、とまるで久方ぶりかと言わんばかりのご開帳に目を見張ったのは、何も私だけではないようだった。大きく開かれた王城門戸の先には、ごく普通の一般庶民である、金環国住民らが待ちかねていた。彼らは、罪人という名の濡れ衣をだいぶ重ねて着せられた私を、首を長くして待っていたものらしい。
私の顔や姿、形を品定めをするかのような、熱い視線を感じる。ただ、ひたすらに静かなものではあったが。だいぶ、人の出があった。相当、バージル王は国民へ言い含めたものらしい。敵国の騎士団長の処刑を。
(うむ……、宣伝効果、か)
ひそひそとした物言いがあちこちで交わされているのを一瞥した兵が、私がしっかと馬に跨っているのを確かめたあと、闊歩させる。
ゆったりと揺らされながら、通常よりも一段高い場所から、この金環国の首都を眺めることができた。晴天下の和の、かつて日本人が臨んだ建築物を見届ける。綺麗に区画整理された街並みは攻めやすいだろうが、さて、どうだろうなとは思う。住んでる住人が、住人だけに。彼らは皆、武に秀でた子孫であるのだ、今なお武力に頼るところがあるという。
王城から出て、処刑場へと馬に揺られて練り歩く。
まあ、よくある市中引き回し、のようなものである。
私の罪状は長ったらしくて読むに堪えないものばかりなため、看板をぶら下げたりすることもなくて非常に清々しいものであるが、いかんせん、私を仰ぎ見る人々の目線が好奇心でいっぱいである。誰もが私の姿を口を開けて見つめている。私と彼らはだいたい似たような人種だと思うが、どこか妙なところがあっただろうか。まあ、私もこのようなこっ恥ずかしい縛り方をされている罪人を見つけたら、ぽかんとした目で見送るだろうが。じりじりとした太陽光線が、私の頭上を焼いている。本当、良い天気である。
しっかし、背後でぞろぞろと、金魚の糞のごとくついてくる馬車が煩い。
酒盛りを中でしているんだろう、時たま、閉じられた箱物だというのに、大声がこちらにまで届いてくる。そうして、それら馬鹿騒ぎも、無論のことながら、一般国民である金環国住民が目の当たりにしている。
彼らは、理解していないようだ。
このままだとこの金環国家が終了の鐘を鳴らすのだということを、まったくもって把握していない。まさに、愚かとしか言いようがなかった。




