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二十四話

 (たまらん)

 ふっくらとした米粒が、ふんわりと盛られている。

感涙しながらご飯を食べた幼児の頃の気持ちをフラッシュバックさせながら、ぱくぱくと焼き魚をつっついて骨から身をほぐすようにして押し込み、頭をちょいととって、だらら。すべからく骨をとってしまった。

 骨も皮もとられ、真っ白な肉がすんなりと姿を現した。

 ほかほかの白身は、海沿い以外の人間には贅沢な味である。

醤油をたらし、ゆっくりと染み込む光景はさらなる食欲が増し、口に含むと魚の油にも旨みがあるのが知れる。すりおろされた大根も添えてあったので、それも合わせてぱく。

 (美味い)

 もう、それしか表現のしようがない。

堪能したら、ご飯もあわせてばくり。このコラボレーションを異世界でも味わうことができるなんて。日本人様様である。ますます、過去の偉人たちを湛えながらも、自称日本人を助けてやりたいという思いが強まる。

 他、丸い木造りのちゃぶ台には、大根の漬物がど真ん中に鎮座し、ワカメと豆腐の味噌汁が手ぐすね引いて、私を待ち構えている。待ってろ。今、箸をそこへ伸ばしてやる。

 そんな私の、ある種の手際の良さを、隣で茫然としているのは、副官殿。

 上司でもあるジェイズのご飯を装うために米櫃の前で、年季の入ったシャモジとお椀を持って正座をしていた紫部しぶは、ほええ、と感嘆の声を上げた。

 

 「す、すごいです、団長様!

  ここまでお上手にお箸を扱える人、

  金環国家バージルの人以外に見たことありません!」

 「そうか?」


 いや、まぁそうかもしれない。

魚、は我がアーディ王国でもとれるものだ。だから、別にそう特別とは思わなかったが、考えてみると、金環国家特有の箸でここまで扱う外国人はさほどいないだろう。ずっと人も物流も制限してきた国である。

 なので、金環国家に興味のない大多数の一人であった副官殿は箸は使えない。自前用の食器類を使っていた。見覚えがある量産型のスプーンやフォークなので、騎士が持つ自前の野外セットから引っ張り出してきたものだろう。

 温泉を擁する宿場町は例外だが、金環国家の首都は確かに人の出入りは増えてはいるものの、それでも観光客向けには仕上がっていない。


 「そうですね。

  わたしも、団長が、まさかここまで箸使いがお上手とは」

 「そうだったか?」

 「基本、フォークとスプーン、ナイフですから」


 副官殿のお皿に乗ってる魚は、見事に御頭がナイフでぶった切られているものの、中央部分までもが丸太切りの装丁となっていた。内蔵までもがぶつ切りにされており、食べるのに苦みという当たりまで引いてしまいそうである。

 そんな四苦八苦な副官殿と、私を見比べて、にっこりとほほ笑んでいるのがジェイズである。


 「ぶふふ」

 「……なんだ」

 「いや、何、こうして、護衛騎士の騎士団長と、その副官、

  それに、俺という情報部長官にして実行部々隊長の俺、と、

  諜報員見習いの紫部しぶちゃん、

  この4人が一緒にご飯を食べるなんて、すごいメンツだな、

  って思ってね」


 嬉しげに少女からご飯をもらい、私と変わらぬ程度には箸を使うこの男。

こんな身内しかいないような畳の上でもやっぱり小汚くあぐらをかき、飽くなきチャラ男路線を続けるつもりのようだった。

 

 「副官殿とも初めてお会いしたし、

  リディの面白い所も見つけたし、

  最近はヤバいな!」

 「や、ヤバいのか」

 「ああ! ヤバい!」

 「そうか……」


 本当、凄腕だな、この幼馴染スパイみは。

役になりきる。さすがは子供の頃に劇団に放り投げられた諜報員スパイである。

 

 「それに、こんなに長いことリディと一緒にいるってことは、

  本当にここ数年なかったことだしな。

  俺は嬉しいぞ~」

 「そ、うだったか……?」

 「なんで疑問形なんだよぉ、リディは嬉しくないんか」

 「いや、私もそこそこ嬉しい」

 「ぶはっ、そこそこかよ!」

 

 白い歯を見せながらご飯粒を何粒か口から吹き飛ばすこいつに、ちゃんとしろと言いながら少し距離をとっていると。

 (ん?)

 副官殿のフォークが止まったままになっていた。刺さっている輪切りの魚身が今にも畳に落ちそうである。


 「副官殿?」

 「あ、いえ、その……」

 「どうした?」


 訊ねると、ちゃんと八の字にナイフとフォークを皿の上に置いて私たちに向き直る。


 「その、サトゥーン団長と、

  隊長殿は、仲が大変良ろしいのだなと思いまして」

 「ああ」

 「知らなかったのか?」

 「はい。団長に会うために来たとき、

  いきなり諜報員だと名乗るジェイズ殿を知らず。

  ずいぶんと疑ってかかりました。

  その節は、失礼しまして大変申し訳ありません」

 「いやいや、別にそこまで言わなくても大丈夫だよ、副官殿」


 ジェイズはだいじょーぶだいじょーぶと、軽く言っているが、本来、諜報員と騎士がここまで仲が良いなんて稀なことだ。

 職場も、騎士は王宮や治安維持のために出張ったり見回りやら要人の護衛をするのがメインだし、むしろ文官とよく顔を突き合わせる。

 逆に諜報員スパイたちは、影に息づく者そのものなので、表で顔を晒す必要がない。そういった理由ワケで、職場が被るなんて滅多にないので、私たちが気安くしているのを副官殿は不思議そうにしているんだろう。

 (そういえば、説明していなかったか?)

 久しぶりの友と酒飲みをする、ぐらいはスケジュール的に言っていたが、踏み込んだ発言はしなかったような気がする。

 ジェイズは、あー、と声を上げながらも、まぁいいか、なんて自己解決をし、言葉を紡ぐ。私も頷いた。


 「俺とリディは、幼馴染みなんだよ。

  昔っから。 

  子供の頃、人の物まねを覚えさせようと、

  父と母から勘当まがいのことをされてね、」


 (劇団に放り込まれた事だな。

  こいつにも可愛い時期があったものだ)

 今じゃキンキラな頭を片手でガシガシ掻いてる、愉悦な奴だが。


 「それで、ふて腐れていたところを、

  このリディ坊ちゃんが……」

 「ふ、まぁ、そうだな、

  お前は確かにふて腐れていた」

 「おい、リディ。

  リディだって人の事言えないだろ」

 「確かに」


 偶然の出会いだった。

私も、前世が恋しくて泣き崩れていたし、こいつだって親に捨てられたんだと泣き喚いていた。その後、ジェイズ曰く近所でも評判の悪餓鬼になったらしいコイツは、私を近場の遊び場に連れ回して、疲れたら昼寝をしに私の部屋の、フカフカ布団とオヤツを目当てに入り浸っては帰っていく。

 ……今思えば、伯爵貴族嫡男と仲良くしておけば、いくら近所でも評判の悪童とはいえある程度の誤魔化しが効くと、昔っからこすっからい賢さを発揮していたんだろう。

 

 「……あの頃は、楽しかったなあ」


 はぁ、と。なんだか疲弊感のあるため息をついているジェイズ。

手にあるお椀の中のご飯はすっかりカラになっていた。こと、とちゃぶ台の上に置き、


 「紫部、茶の用意、できるか?」

 「はい」

 「茶菓子もあそこ、女郎屋の前に売ってただろう?

  買ってきてくれないか」

 「わかりました」


 未だ食事中の少女に、お茶の準備をさせる。

 (亭主関白か)

自分ジェイズがやれよ、と思ったが、この人の心の機微を読むことにかけては殿下にも引けをとらぬ幼馴染スパイみのことである。紫部が慌ただしく立ち去る後ろ姿を三人で見守ったのち、さて、と、唇をにんまりと半月の逆さまにしたジェイズは、副官殿に目を向けた。


 「で、急いで来たわりに、大した用事ではないという、

  その用事を知りたいんだけど」


 勿論、教えてくれるよね?

小首を傾げ、真っ直ぐに副官殿を見据えるジェイズに、副官殿は、中途半端に止まったがもう食べるつもりはないのだろう、ちゃんとフォークとナイフを端っこに二本、寄せる。

 そうして、私に指示を伺うような視線を送ってきたので、鷹揚に首肯した。

 

 

 

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