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小話<金環国家>

付け足し文章なので、短文です。

あとちょこちょこ修正。

「デハ今回ノ題目、あのクソ王子をぎゃフんと言わせたい会議開会ヲ宣言すル」

「閉会!」

「オイ、勝手に閉会すんナ」


 がん、と響き渡る木槌の音。

さて、今回も夜な夜な集まったのは、いつものメンバー。

 中央にサダチカ時期王、右に宰相候補、左に里山遥、そして彼女を護衛するなよ竹集団な護衛らを背後に熱々な空気感を感じ取りつつ、正面には幼馴染みたる細身と筋肉護衛の二人である。

 木槌を机に渾身の一撃で叩き込んだ里山遥、面白そうに笑う。


「ええー、だって、あの綺麗な王子様でしょ?

 無理だって!」


 あははは、と木槌を片手で振り回しながら笑う彼女に、ぐぬぬと歯ぎしりを立てる時期王。


「無理じゃナイ、あいつダッテ人間だ、いくらクソだとしてモ、

 どんな人間だって弱点ハある」

「でも、その弱点ってリディさんでしょ?

 帰国しちゃったし……」

「ム」


 そうなのだ。

彼ら二人にとって一番接点がある、脳裏に浮かべる穏やかな表情の彼、リディール・レイ・サトゥーン騎士団長はクソ王子の護衛騎士なのである。

 一時、金輪国家が人質として捕らえていた側近中の側近。アーディの王太子は、傍目からしても側近である彼にだけはずいぶんと心を開いていたので、里山さんも即、考え至るのであった。


「……あの騎士団長殿は、

 ぶふっ、あの王太子殿下を振り回しておられますからな。

 無自覚というものは、実に厄介なもので」


 思い出し笑いに余念がない、宰相候補。

いつも意味深な発言ばかりしては、床に笑い転げるのが常であった。

 それに冷ややかな視線を投げる、次期王。


「ナニがオカシイ」

「いえいえ」


 ぶすっとしてしまう金輪の少年王に、宰相候補はようやく真顔でごほん、と咳をして居住まいを正した。変わり身が早い。


「ま、とにかく。

 世界で一番遺品を持つ魔術師相手に出し抜くにしても、

 ぎゃふん、と言わせる程度なら、なんとかなるでしょう」

「できるノか?」

「え、本当ですか?」


 異口同音で聞いてくる二人の年下に、化け物宰相、鷹揚に頷く。


「もちろんですとも」


 それに、おお、と希望の光が灯った二人の瞳、実にキラキラと輝いている。

夜な夜な、妙などんちゃん騒ぎばかり起こして金輪王城内の警備兵にぎょっとされるこの会議、クソ王子ぎゃふんな会議にも、結末という名の光が早々と見えた模様だ。


「ええー?

 あのおっかねぇリヒター王太子にそんなもの、

 というかできること、あるかねー?」

「世界一の魔法使いですからな。

 剣もあり、顔も良く、地位も権力も金もある……、

 狂王子に、美貌王子……、

 いったいなにが?」


 今回のお題目であるぎゃふん会議、怪しい流れだ。

二人の護衛は、なんとも言いようのない顔で、お茶を啜る。


「ふふふふ、まあ、見ていなさい。

 この化け物宰相と呼ばれる僕の実力、

 こんなものではありませんからな」


 言いながら、彼は紙ペラを見せつけた。

二人の時期王と黒髪少女、興味津々で覗き込む。


「ほう、」

「わお」


そこには、隣国アーディ王国への外交使節団、という名称が。


「これは……、観光大使みたいな?」

「もっと強力ですな。

 端的に言えば、外交官。

 我が金輪国家代表として、アーディ王国へ行くことができます。

 外交官は大事にされる存在、それなりの接待をしなければならないのは、

 アーディ王国側になりますな」


(アーディに、行ける?)

それに、ぴんとキたのはやはり二人の護衛、細身と筋肉。


「これは……揉めるな」

「揉めますな」


さも他人事のように、煎餅をかじり始めた。湿気っていたが。


「わああああ、すごい!

 行きたい! わたし、立候補しまっす!!」


当然ながら、元気に片手をあげる里山遥。

対し、


「お、オレが行く! 行くゾ、オレガ!」


いきり立つ、サダチカ・バージル・カエシナ。


「いや、あんたこの国の時期王、というかさ、

 すでに王としての仕事しちゃってるし、外交官って身分じゃ釣り合わな」


 なんて細身君が思わず呟くが、わあわあと叫ぶ若い二人の声に掻き消えた。

ぽん、と片手で叩かれて振り向けば、筋肉ダルマが頭を横に振った。

筋肉君の視線の先には、化け物宰相。

 大笑いをしている。ぴくぴくと痙攣中。

(え、まさか偽物の紙……)

 と思ったが、にやりと笑いながらの小太りは察し良く、


「いえ、本物ですよ」


 なんてほざいた。

(コイツ、脳内読みやがった……!)

どうやら本物の公文書を使ってまで、笑いをとりにいった模様である。

驚愕する細身。

 なよ竹集団も呼応する。


「まあ、アタシもアーディに?」

「あんな良い男ばかりの国に?」

「あらあら、どうしましょ。今日は興奮して眠れないわね!」


などと、もうすでに向かう気満々である。

旅支度の相談をし始めた。


「いやはや……これはこれは、

 面白いことになりましたなあ……ぶふっ」

「オイ、オレが行くから、里山遥、

 あんたはこの国で留守番しテろ。

 遺品でもつけてりゃ、少しはサマにナルだロ」

「む、そうは問屋は下ろしませんよ!

 わたしが行きます、行ってアーディの観光して、 

 うふふ、リディさんと待ち合わせしてデートしてきます!」

「な、なナな、デート、だト!?」

「楽しみー」

「オイ、どういうコトだ!」


 詰め寄る時期少年王に、さっと足早に逃げる黒髪少女。

にらみ合う双方に、小太り宰相の腹筋も限界間近だ。

 と、そこに両扉が大きく開かれ、一人の人物が現れた。


「あ」

「……これは皆様。お揃いで。

 どういった、お集まりなのでしょう」


 そう、アーディの人間、サトゥーン騎士団長の副官殿である。

眼鏡をきりりと人差し指で持ち上げ、周囲を睥睨する。


「まさか、報告通り、我がアーディ王国の国家転覆を……」

「んなわきゃあるかーい」


細身がとりあえず突っ込み、筋肉ダルマが手際よく日本人少女へ視線を向け、


「では、閉会ということで。

 里山様」

「了解です!」


かぁん、と。響き渡る木槌の音と共に、


「二回目は後日ということで!」


 高らかに宣言した。

 宰相候補のにやりとした顔に、よからぬものを感じ取った副官殿、どういうことだと言い募ったが、


「なぁに、若者には旅をさせろと申しましてな……」


 煙に巻かれていた。


「じゃ、明後日開会ナ」

「それまでに決まればよろしいのですが」

「決まらんでしょ~、みんなアーディ王国、観光したいって思ってるし」

「わあ、ライバルいっぱいですね!」

「フフフ、これは負けられませんわねえ、里山様!」

「アハハ、そうね、あっちで良いオトコ、漁る……、いえいえ、

 見つける楽しみもあるわねえ」

「いやあね、目の保養よお! そう邪険に見ないで、王様!」

「……ムム、オレはタだ、リディに会いたイだけなのに……」


金輪国中枢、夜な夜な会議が行われるという。

そこに集まるは、騒がしい金輪国の人間たち。

 時に愉快で、時にしょうもないお題目を審議する会議、金輪国家バージルの慣習となっていったという。

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