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その日の生物の授業で、二人組になってくれと先生に言われた。
好きなもん同士でいいよ、とのんびり言われる。亜季とあっちゃんをちらりと見たが、ここはもう当たり前のように確定している。多美はあせって周りを見渡した。誰か余っている人、いないかな。
あせりながら探したら、より後方に、一人ぼうっと外を見ながら、我関せずといった風情で座っている女子を見つけた。
確か古沢さんだったと思う。本当は彼女が主席合格で、入学生代表の祝辞を言う予定だったらしいが、遅刻してきたためにその式次第自体が省略されたという逸話が残っていた。とても長いストレートの髪をサイドだけまとめて、細いフレームの眼鏡をかけている。見た目から知的で、亜季とはまた違うタイプの美人だったが、こちらは雰囲気がなんとも近寄りがたい人だった。多美が声をかけようか迷っていると、古沢さんの方がこちらに気づいた。目が合った時にそんなに怖そうな印象がなかったので、思い切って近づいていった。
「古沢さん、二人組になるっていうの、相手の人決まってる?」
古沢さんはきょとんとした顔をして、多美を見つめた。そして、そういう展開、とつぶやいた。
「いや、全然。ちょっと寝てたらそんなことになってた?」
「寝てた?」
「うん、ちょっと寝不足。――あ、ちょうどよかった。もし決まってないなら一緒にどう?」
ちょっと変わっている。噂通りマイペースな人らしかった。けれど不快感がなかったのが、自分で意外だった。
「じゃあ、お願いします」
席は古沢さんの横に移ることにした。亜季とあっちゃんが大丈夫? と心配そうに見ていたのに笑顔で答えて、教科書とノートをすばやくまとめる。
隣の席に座った私に、彼女はにこりと微笑んだ。笑ったところを見たのはそれが初めてだったが、とても和やかで大人な感じだった。
「古沢唯。よろしく出席番号七番の梶原多美さん」
自己紹介しなくても、クラスの人の名前は全員覚えていたらしかったのには、少しだけ驚いた。