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君に告ぐ  作者: ミズハラハヅミ
第一部 あたらしい日々
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 学校がスタートして二週間ほどたって、やっとのことで授業が始まりだしている。国語は甲が現代文で乙が古文、数学はαの数学Ⅰとβの基礎解析。理科は生物と化学が一年の必修。社会は歴史と地理。英語にいたっては長文読解と英文法に英会話の三本立てだ。さらに中学のときよりも内容がぐっと難しくなっている。予習だけでも精一杯。

「眠い……今日のリーダー予習してない……」

と、眠そうに机につっぷす亜季に、あっちゃんが今日十八日だから当てられるよと心配そうに声をかける。あっちゃんというのが、亜季の小学校からのお友達で、堀口敦子ちゃん。小柄でかわいらしくてほんわかしていて、亜季とは面白いくらいに対照的なイメージの人だった。

「どういうこと?」

「アキ、昨日徹夜でDVD見てたんだよ」

 それは自業自得だ。私の訳、今のうちに写しておきなよと言うあっちゃんが親切すぎる。亜季はもうあきらめたらしく、すうすう眠っている。

「そんなに遅くまで、なんのDVD見てたんだろう……」

「ウィーン少年合唱団・年末ライブ完全版」

「ええ?」

「冗談でなく」

 あっちゃんは少し苦笑気味で教えてくれた。

「亜季はこう見えても、中学の合唱部では結構知られた人だったのよ。だからこういうことには勉強熱心」

「じゃあ、志誠も合唱部目当て?」

 この学校は合唱部が全国レベルで力のある学校でもある。あっちゃんの顔がまぁねと笑いかけた。

「あっちゃんも合唱部?」

「私? 私音痴だから歌はちょっと。中学では料理部だったんだけど、ここは合唱部でマネージャー募集もあるらしいから、そっちでお付き合いしようかなって。――多美ちゃんはクラブ活動しないの?」

 あっちゃんに聞かれて、思ってもなかった問いかけに、しばらく返事が遅れてしまった。

「そうだね……」

「中学の時は何かしてなかったの」

「必修の時は英研にいたけど、いろいろ時間なかったし」

 クラブ活動なんて……考えたことがなかった。中学の時は、帰りの遅い両親のために家事はすべてやっていたし、週末は病院に通っていたから、クラブ活動をする暇なんてなかったので、実質帰宅部だった英研に籍だけ置いていた。高校だって、実加の病院から近いから志誠を選んだ。

 ――でももう実加はいない。

 だからやろうと思えば何でもできるんじゃないか。

 言われるまで気づかない自分に苦笑するしかない。

「昼から講堂で部活紹介あるし、ちょっと考えてみる」

「合唱部にしなよ」

 うわぁっとみんなで声をあげてしまうタイミングで突然、くぐもった声が沸きあがってきた。眠っていたはずの亜季が、まだ眠そうな目で私を見た。

「一緒に歌おう」

 亜季が睨んでいるように思うのは、おそらくまだ寝ぼけているからだろう。合唱はないだろう、と思いながら、考えてみるねと当たり障りのない答えを返した。




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