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「個室に移る直前、右腕に怪我してただろう? あれ、なんでだか聞いた?」
「いえ……」
あのままうやむやにされたやつだ。そういえば珍しく二人が梓に加勢していた。
「あの、高橋先生の治療方針にまーったく興味のなかった梓くんが、会議室で大暴れした時にやっちゃったケガなんだよ」
「大暴れ?」
ものすごく意外な言葉を聞いた。
「うん。ほら、俺ら長期で治療してるし、時々そういう話し合いは先生としてくんだけどさ、梓くんってけっこう投げやりだったから、そういう場にさえ来ないことが多かったらしいんだけど。あの時はね、ちょうど補助人工心臓の件で大分もめたらしいんだよね。確かに移植待機の最終兵器ではあるんだけど、けっこう積極的な治療方法でもあるんだよ。でも梓くん、どうしても嫌だったみたいで、思いっきり抵抗したらしい」
もめた、抵抗、嫌だった、どれも多美の知っている梓にはなかったものだ。
「その時、梓くんがなんて言ってたか、高橋先生から聞いた」
井口さんがぼそりと呟いて、その言葉を言った。
「これ以上、俺の命から、自由を奪うな」
「え――」
「あの梓くんが、自分らしく生きるためにアクションを起こすなんて、思ってもなかった」
この事件自体を、みっともない話、と梓はちょっと困った顔をして言っていたけど。
「梓くんはただ足掻いてみただけだって言うんだ。でも俺それ聞いた時にさ、梓くんは多美ちゃんを選んだんだって、思ったんだ」
告白しないの? と聞いても、しないしないと軽くかわされた。
どうなのかね、と軽くはぐらかされた。
「あれは、多美ちゃんが好きだったから、選んだ生き方だったんだよ」
いつの間にか、彼は、実加に殺してもらった部分で生きる選択をしていた。
「梓くんがいない今、そんなことを言われても困るかもしれないけど、でも多美さんも梓くんのことが好きだったように見えたから、ちゃんと教えてあげたくて」
お二人のちょっとおせっかいな感じが意外でもあり、梓が慕われていた証拠でもあり、少しこそばゆかった。
「……ありがとうございます」
「俺たちも、君たちがわいわいやってるのを見てるのは楽しかったしね」
「どちらかというとやきもきした」
井口さんはストレートに文句を言った。「全っ然、進展しないし」
それを聞いて荒井さんは盛大に吹き出した。
「井口くんがそれを言う!」
よく分からないがツボにはまったらしい。
お二人に七色虹色ゼリーのお土産を渡して、和やかにお別れをしてきた。井口さんは在宅療養が可能らしく、来週には退院するとのこと。荒井さんも実家のある隣県の、もっと大きな病院へ転院することが決まったらしい。ここから梓のことを知る人は、こうやってどんどんといなくなっていく。




