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近いうちに行かなければと思っていたこの道のりは、今日で最後になる。校門を出てまっすぐ、ゆるくてカーブのあるいつもの坂道を登る。大通りの向こうにある大きな白い建物は、いつもの大学病院だ。病院に入る前に、あけぼの堂でケーキと七色虹色ゼリーの詰め合わせを買った。
今日は外来受付を通らず、直接敷地を迂回して、入院棟の専用入口を目指した。いつも通り抜けていた中庭が見えたけど、もう上から多美を呼ぶ声はしない。あの日ばらまいた、山のような花びらは、既に跡形もなかった。
いつも通っていた四人部屋をノックして、扉を開けた。すでに病室は全部が埋まっていた。亡くなった的場さんの場所には、眼鏡をかけた三十代くらいの人が、奥さんらしき人と話をしていて、梓のいた場所には六十代くらいの白髪のおじいさんが入っている。
「多美ちゃん?」
すぐ左側で荒井さんが多美を呼んだ。
「こんにちは。お加減はいかがですか?」
「びっくりしたよー。どうしたの?」
「荒井さんと井口さんのお見舞いに」
ベッドの斜め向かいは空だった。私物が替わってないので、ただ外しているだけだろうと思ったら、背後から声がかかった。
「え? どうしたの?」
振り返ると、戻ってきた井口青年が、戸口に立っている多美にびっくりしていた。
「おれらのお見舞いにきてくれたんだって。ささ、どうぞどうぞ。井口くんもこっち座りなよ~」
玄さん、椅子貸してくれる? と荒井さんが隣に声をかけてくれて、いつも多美がかけていたパイプ椅子をお借りした。荒井さんのところの椅子には井口さんがかけた。
「えっと、遅くなりましたが、これを」
お二人にまず薄いカタログの包みを手渡す。ご会葬御礼。お二人は多美に香典の代理を頼み、多美が代わりに受付に出してきた。
「ちゃんとお二人の分も見送ってきました」
「それはどうも」
「悪かったね」
二人は複雑な顔でその包みを受け取った。多美はちょっとだけ笑う。
「懐かしい。実は梓に初めて会いに来た時とおんなじ。妹の香典返しを持ってここに来たの。ご丁寧にどうもって、すっごくつまらなさそうに、言われた」
「それが初対面?」
「二人きりでは。妹が付き合ってた時も、顔合わせるだけで、挨拶もしたかしなかったぐらいだったし」
「へぇ……梓くん、けっこう俺らにも話してくれなかったんだよ。多美ちゃんのこと。ずっと彼女なの彼女なのって聞いてたのに、違うって俺の彼女は死んじゃったしーっていうだけで」
井口さんと荒井さんはそう言って、二人とも多美をじっと見つめた。それから何故か目配せしあって、しばらく譲り合う様子を見せて、ようやく荒井さんが話を続けた。
「今更それを言うのは反則かもしれないけど」
「ちょっとね、あれから何度か荒井さんと話もしてて」
「伝えたほうがいいんじゃないかなって気がしたから」
二人が交互に言いにくそうにそう言う。何の話だろう? 多美はその続きを静かに待った。




