6
初七日の時に、多美は一人で梓の実家へ訪問させてもらった。海沿いのかなり大きなお屋敷で、ちょうど休日、お坊さんがお経をあげた後でのタイミングになった。
梓のお母さんは連絡もせず挨拶に訪れた多美を、こころよく迎え入れてくれた。
広いリビングの隅に小さな机を広げて、梓のスペースが設けられていた。写真の遺影は、まだ元気だった頃の梓で、多美の知っている面影とは少し違う。健康そうな肌色、すこしふっくらとしているというか肉がついていて、ああ、学校にいた時カッコイイ先輩だったって本当だったんだなと思った。
お線香をあげて手をあわせてから、梓のお母さんはお茶を入れてくれた。病院でお見かけするときは、立ち話程度しかしてこなかったので、こんな風に直接二人でお話するのは初めてだった。
同じリビングの、座り心地がすごくいいソファに腰を下ろす。お母さんが、そこ、梓の場所なのよと教えてくれた。
「本当は仏壇が畳のお部屋にあるんだけれど、今くらいは側にいてやりたくて、ここに置いてあるの」
「そうだったんですか」
「あれでけっこう寂しがりやだったから」
実加と同じことを、梓のお母さんは口にした。
「……多美ちゃん、あらためて、本当に今までどうもありがとうね」
「いえ、とんでもないです! 私こそこんな状態の梓さんのところへ、お邪魔になるくらいにいさせてもらったんで、お気を悪くされてたんじゃないかって」
「そんなことはないわ。……実加ちゃんも、多美ちゃんも、梓にとっては大事な人だったもの」
「実加の時は、たくさんのお花と、式にも来て頂いて、ありがとうございました」
「いいのよ。あの子がそうしてってお願いしてきたんだし、私もそうしたかったから。こちらの時も皆さんでいらしてくれて、本当にありがとうございました。ご両親にもよろしくお伝えしてくださいね」
はい、と返事をして、出されたクッキーをいただく。紅茶も慣れたティバッグの味ではなく、きちんと茶葉から淹れたものなのだろう。本当に美味しかった。
あらためてリビングを見渡す。梓の生まれ育った家。大きくて広くてきれいで。一つ一つの調度品がカタログの中みたいにおしゃれだった。病室にいる弱った彼ばかりを知っていて、この部屋でくつろく梓の様子が、どうにも重ならなかった。
「梓のドナーの件、多美ちゃんは知らなかったのね」
お母さんにそう切り出された時、病室でどうしてどうしてと高橋先生につめよる多美を、お母さんは見ていたのを思い出した。あの時はまだ死んだことを認められていなかったから、とっさに抵抗してしまったのだ。
「お母さんはご存知だったんですか?」
「ええ、カードの家族署名もしたし」
「それはもうずっと前からですか?」
「いいえ、実は亡くなる二週間くらい前の話なのよ」
ええ? 多美は驚いた。そんなに最近の話だったのか。
「それも梓から聞いたんじゃなくて、高橋先生からお話があったの」
ますます驚いた。お母さんはカップを片手にくすくす笑う。
「きっと私が絶対反対するって分かっていたんでしょうね」
あれだけ辛い思いをしたわが子をこれ以上切り刻むのか。心情として、梓を傷つけるようなことは絶対にしたくない。それがお母さんの気持ちだったのだという。
「あの子はまず高橋先生に、自分が臓器提供できる可能性はあるのかを相談したそうなの。自分の病気のことを踏まえてのことだったんでしょうけど。結果としては心停止での提供の可能性が高い、そうすると提供できるのは腎臓、膵臓と目だけ。検査結果にもよるけど、今の状態でも確実に目だけは提供可能だとわかって、それならって決めたみたい。で、先生に親の説得を依頼したというわけ。本当に最初っから最後まで先生にご迷惑ばかりおかけして、あの子ったら」




