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君に告ぐ  作者: ミズハラハヅミ
第三部 花の降る正午
57/79

18

 窓辺には美しい白い花が咲き乱れていた。自分で活けた感じに自己満足。多美がよしとつぶやいたところで、ゆっくりと梓の目が覚めた。

「……多美?」

「起きた? おはよう」

 起きた時、多美はどんな時間でも、なんとなくおはようと答えてしまう。今は一人病室でぼんやりしているのも少しつまらない。窓の景色は、以前より少しだけ左にずれている。少し前に梓は以前の四人部屋から、三つほど隣になる個室へ移動してきたからだ。前は荒井さんとか、井口さんがいたから、会話を交わすということがなくても、何となく空気に色や音があって居易かった。

 淋しがりやだから、と言っていたのは実加だった。だから多美は個室に移ってからは、花束を持ってくるようになっていた。小遣いに響くので、花屋ではなく近くのスーパーでとにかく安い束を買って、自分で綺麗に活けるようにした程度のものだけど、梓はことのほか喜んでくれた。

「……また、あの夢を見たよ」

 最近梓はいつも同じ夢を見ている。

「この間見たっていう、とってもいい夢のこと?」

「うん」

 初めてその話を聞いた時、いつになく熱のこもった口調で話されたことにまず驚いた。それを初めて見たのは三日間眠り続けた時のことらしかった。

『多美はこんなキレイな空を見たことがある?』

 梓の問いに多美は静かに首を振った。

『空。青くて遠くて、ずっとずっと広い空に、色が降ってくる。いろんな色』

『色?』

『万華鏡みたいにきらきら光って、雪みたいにふわふわってゆっくり降ってくるんだ。それがあんまりキレイで全然飽きないんだ』

 梓はにっこりと笑った。『だから、ずっと見てる』

 窓辺に活けてある鮮やかで、なのに匂いのない花束に目をやり、この花を空に投げた感じなのかなと想像する。この夢を見ていた時の梓はすごく浮かれていて、そして大概が何日も目が覚めない時だった。カレンダーに×もつけずに、嬉しそうにその夢の話をする梓が、あまりに自分から遠く感じて怖くて、強く強く梓の手を握り締めた。

「……そう、よかったね」

「全然よさそうに見えないよ」

「そんなことないよ」

「――多美にも見せてあげたいなぁ。本当にキレイなんだから」

「梓」

 多美はもう聞いていられなくて言葉を遮った。「お願い、そんなこと言わないで」

 どうしたの? 梓は何がいけなかったのかまったく分からないまま、小さく首をかしげて多美を見ている。

「いかないで」

「どこへ?」

「……最近の梓、その夢の話ばかりする。まるでそっちが梓のいる場所みたいな言い方する。遠くに、行ってしまう気がする……」

「多美の気のせいだよ」

 よしよし、梓はよいしょと身を起こして、握っていない方の手で、多美の頭を優しく撫でた。

「わかってます。あれは夢だよ。ただの夢。それに何日も寝込むなら、悪夢よりいい夢みたいじゃん。それくらいのことだよ」

「ならいいけど……」

「でも本当に多美にも見せてやりたいなぁ。もうそろそろお誕生日でしょ?」

 梓から意外な言葉が飛び出してきた。

「そうだけど、知ってたの?」

「詳しくは知らない。けど実加ちゃんからちょっと聞いた気がする」

 何日? と間髪いれずに問われて、そのままに答える。

「何かしてあげられるといいんだけど。あの夢みたいに、キレイなものがいいんだけどな。……考えるよ。まぁこんなだから、あんまり期待しないでくれると嬉しい」

 自分のやせ細ったどうしようもない身体をきょろきょろと見て、肩をすくめた。

「気にしなくてもいいのに」

 多美の相槌に、梓はいえいえとお茶らけてみせて、笑いかけた。久しぶりの笑顔だった。

「そうだ、多美に、やっぱり言っておかないといけないことが」

「何?」

「ちょっと前に屋上で聞いた話のこと」

 梓はちらっとカレンダーを見た。それからカレンダーと側に置いてあるペンを持って、×を4つつけて、それから次のページをめくって、多美の誕生日に大きく二重にマルをつけた。





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