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君に告ぐ  作者: ミズハラハヅミ
第三部 花の降る正午
52/79

13

 夜になって、ICUにいるままの梓は、それでも危機は脱した様子だった。元々油断が出来ないのはこういう時だけではない病気だ。心不全はいつでも突然に訪れる。多美は連絡をくれた梓のお母さんにお礼を行って、病院を後にした。

 伊東くんはICUの前で泣いていた。けれど先輩との約束を破るからと言って、すぐに帰っていった。

 カバンも身の回りのものも、全部学校に置いてきてしまったことに気付いたので、とりあえず学校に戻ることにした。今は文化祭準備で、遅くまで残っていたりするので、多分戻っても大丈夫だろう。

 実際戻ってみたら、あちらこちらの教室で電気がついていた。多美のクラスもついている。恐る恐る扉を開けたら、キレイにセッティングされたテーブルに、亜季とあっちゃんと古沢さんが、お菓子を広げて雑談していた。

「多美!」

 他のクラスメートは既に帰ってしまったようだった。

「遅かったね」

「荷物、ここにあるよ」

「多分取りに戻ってくると思って、待ってた」

 三人が朗らかに、なんというか、本当に普通にそうやって待っていてくれたことに、多美はほろりと自分の中で堪えていたものが壊れるのが、分かった。

 教室の扉の前に立ち尽くして、堪えきれず顔を両手で覆って動かなくなった多美に、三人はぎょっとして慌てて駆け寄る。

「何?」

「どうした!」

「何があったの! 大丈夫? とにかく座ろう。ね」

 寄ってたかって構ってくれる友人たちがすごく嬉しかった。今までこんな風に他人と関わったことがなかった。実加の時はいつも一人で耐えていた。両親の姿を真似して、多美も一人で耐えることしか教えてもらえなかった。

 ――ああ、今なら、話せる。

 不意に自分の中に赦しが生まれた。ずっと閉じ込めていたものを、吐き出してもいいんだと思えた。

 あの日、梓にもう生きたくないと言った時のように。

 でもどこから話をしたらいいのか分からなかった。それは実加が生きた丸十四年間の、そして梓と過ごしたほんの少しを加えた、長い長い話だったから。

 ずっとどうしようもなく泣く多美に、古沢さんが呟いた。

「私、入学する前から、多美のこと知ってたんだ」

 意外な一言だった。




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