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夜になって、ICUにいるままの梓は、それでも危機は脱した様子だった。元々油断が出来ないのはこういう時だけではない病気だ。心不全はいつでも突然に訪れる。多美は連絡をくれた梓のお母さんにお礼を行って、病院を後にした。
伊東くんはICUの前で泣いていた。けれど先輩との約束を破るからと言って、すぐに帰っていった。
カバンも身の回りのものも、全部学校に置いてきてしまったことに気付いたので、とりあえず学校に戻ることにした。今は文化祭準備で、遅くまで残っていたりするので、多分戻っても大丈夫だろう。
実際戻ってみたら、あちらこちらの教室で電気がついていた。多美のクラスもついている。恐る恐る扉を開けたら、キレイにセッティングされたテーブルに、亜季とあっちゃんと古沢さんが、お菓子を広げて雑談していた。
「多美!」
他のクラスメートは既に帰ってしまったようだった。
「遅かったね」
「荷物、ここにあるよ」
「多分取りに戻ってくると思って、待ってた」
三人が朗らかに、なんというか、本当に普通にそうやって待っていてくれたことに、多美はほろりと自分の中で堪えていたものが壊れるのが、分かった。
教室の扉の前に立ち尽くして、堪えきれず顔を両手で覆って動かなくなった多美に、三人はぎょっとして慌てて駆け寄る。
「何?」
「どうした!」
「何があったの! 大丈夫? とにかく座ろう。ね」
寄ってたかって構ってくれる友人たちがすごく嬉しかった。今までこんな風に他人と関わったことがなかった。実加の時はいつも一人で耐えていた。両親の姿を真似して、多美も一人で耐えることしか教えてもらえなかった。
――ああ、今なら、話せる。
不意に自分の中に赦しが生まれた。ずっと閉じ込めていたものを、吐き出してもいいんだと思えた。
あの日、梓にもう生きたくないと言った時のように。
でもどこから話をしたらいいのか分からなかった。それは実加が生きた丸十四年間の、そして梓と過ごしたほんの少しを加えた、長い長い話だったから。
ずっとどうしようもなく泣く多美に、古沢さんが呟いた。
「私、入学する前から、多美のこと知ってたんだ」
意外な一言だった。




