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梓には実加と同じ心臓疾患があり、今も循環器内科に入院している。先天的に障害として患っていた妹と違って、梓の場合は比較的最近――つまり幼少ではない頃に大きな発作を起こし発病、以来少しずつ悪化させながら、融通の利かない身体をやりくりしている。今では歩行することも負担がかかるので車椅子を使っていて、多美が妹の傍にいる梓に初めて会った時も、車椅子に座っていた。
病気のタイプが違うにしろ、同じ重症の病気だった妹とは、やはりいろいろと理解しあえるところはあったのだろう。どうやって妹のことを知ったのかは、梓も、妹も教えてはくれなかった。ただ気がついたら二人は、のめりこむように、恋をしていた。お互いにお互いしかいない、そんな盲目的な恋を二人はしていた。
週末しか見舞いに来られない多美が、梓のことを知ったのは、家族の中で最後だった。梓は多美が見舞いに来ると、必ず席をはずしたので、顔を見たことはあっても、挨拶くらいしかしたことがなかった。その必要しかないくらいに遠い人だった。
梓の存在を決定づけたのは、ある『事件』を引き起こしてからだ。
その事件以来、二人は片時も離れなくなった。いつもいられるときは傍にいて、そしてお互いのことしか見ていなかった。端からそれを見ていた互いの両親や看護師、ルームメイトの患者さんも、危ないと思いながら、二人を止めることができなかった。こんなに見ていて辛いカップルはないと言ったスタッフもいる。本人たちも含めてみんな知っていたのは、二人とも、もう余命いくばくもないということだ。
――これが最後の恋人。
梓に恋をしてからの実加は、今までの中でとても幸せそうだった。だからそんな唯一の幸せを守ってやりたくて、多美もその危うさにそっと目をつぶった。