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あれから梓の具合は日増しに悪くなっていった。カレンダーの日付がどんどんと空白を作っていく。今回の×印は二日前で止まっている。――もう、二日も目が覚めていないのか。
多美はあんな話をしてしまった後も、そんなことはなかったフリをして、梓のもとへ見舞いに通っていた。梓もこのことで何も言うことはなかった。会話をするのも二言三言がやっとの日々が続いた。それでも顔が見たいと言うから、多美は毎日きちんと通った。
最近、梓は長い間眠った後に見ている、変わった夢の話をよくしている。
雲の上に乗ってハワイまで行ってカメハメハ大王みたいな人と将棋を指した、とか、雨降らしマシーンを開発して、第一回天気を雨にしよう計画の責任者になって奔走した、などなど、どれも奇妙で楽しそうな夢ばかりだった。
「何か変なんだよね。途中からこれは夢だなって分かってるのが、もう変だろ?」
「でも時々私もあるよ。分かってるんだけど、見続けちゃうっていうか」
夢だと思った時点で目が覚めないことはよくある。梓もそうそうと相槌を打った。
「どんどん訳が分からない方向に行っちゃうんだけど、止まらない」
梓の場合、そのペースで丸二日とか目が覚めないままなので、大変だと思う。
「多美の方は、どう?」
もう夏休みも終わりに近い。終わったらすぐに実力テストがあって、文化祭が始まる。今は補習ではなく、文化祭の準備で毎日学校へ通っている。高校生の夏休みって、こんなにあってないものだとは思わなかった。
「いいね、文化祭。多美のクラス、何やるの?」
「……メイド喫茶」
「うそ、多美さん、もしやメイド服?!」
具合が悪いくせに思わず身を起こそうとする。慌てて落ち着くよう押さえた。しかし梓は起き上がりたいらしく、そのまま支えて、座れるように身を起こしてやった。
「写メして写メ!」
どうしてメイドなのか多美にはよく分からない。しかも田島総監督渾身の企画で、メイドも執事も客も、とにかく歌って歌って歌いまくるステージありの合唱喫茶である。
「文化祭でも歌うんだ」
「みたいよ。テーブルに歌詞カードがあって、定時になったら、リーダーっていう店の司会っていうか、メインボーカルがいるから、お客も巻き込んでいっしょに、とにかく店中で歌いまくる喫茶店なの」
お祭りなんだからいいんじゃない? ということで、特に反対意見もなく、意外とすんなり決まった。合唱コンクールの影響で、今の三組には一緒に歌うということに抵抗がなくなっている。当然客がつられて一緒に歌いたくなるようなリーダーが必要になるので、そのあたりは、田島率いる合唱部精鋭が何人か選抜されている。
「それって、もっと大きな声で歌ってくださいご主人様! とか言うわけ?」
「言うんだろうね」
ちなみに男子が「お上手でございます、お嬢様」とか練習させられていた気がする。前準備もけっこう大変で、店のデザイン、衣装、飲食物の手配、当日のスケジュール決めなど雑用満載で、最近は昼もおやつくらいの時間にならないと、病院にも来れなくなっていた。
「それ絶対見たい! 面白そう!」
「近いんだから外出許可とってくればいいじゃない。車椅子でも多分回れるよ」
梓はふふ、と笑った。「無茶は言わない」、急にトーンダウンして窓の外を見つめた。




