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君に告ぐ  作者: ミズハラハヅミ
第三部 花の降る正午
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 進学校の夏休みは補習で埋まっている。休みなんてウソだと思うくらいに、学校に行く用事があるのには驚いた。多美は午前中に補習を受け、昼から病院へ行く生活を続けることになった。休みなら一日中いられるかと思ったが、そうはいかない。むしろそんなに通い詰めても、梓の負担になるだけだ。

 午前中で補習が終わると、そのまま帰る人と、昼から部活組に別れる。合唱部はランチも部内でやるらしく、三人とも慌しく教室を後にする。部活組の数人が、何グループかに固まってお昼ごはんを食べている中、今日も多美はみんなを見送って、一人でお弁当を広げていた。あまり病室でお弁当を広げるのはよくないので、ここで食べてから顔を出すようにしている。

「ここ、いい?」

 声をかけられて顔を上げると、正面に伊東くんがいた。多美が返事するまでもなく、前の席の椅子に背もたれをまたぐように座った。手にはパックの牛乳が握られている。もうお昼は食べた様子だった。

「えーと、あの」

「これから病院?」

 思わず周囲を見渡す。ちゃんと確認していたからか、千葉さんとそのお友達は教室にはいなかった。こんなところを見られていたら、何を言われるか分からない。多美は大きくため息をつく。

「私も巻き込んで四角関係なんてまっぴらごめんなんだけど」

「すぐ終わるから。一つだけ聞きたいんだ」

 伊東くんはストローを口から離して、じっと多美をにらみつけた。手の内で牛乳パックがぎゅっと潰れた。

「先輩、どうなの」

 どうなの、のニュアンスに怖いものが秘められていた。それに伊東くんが怯えているのも分かった。多美は食べかけのお弁当箱の蓋を閉めて、ハンカチできゅっと包みなおす。

「どうもこうも……、多分、もう」

 そんなこと、毎日側にいればよく分かる。多美にも梓本人にも。多美は立ち上がって、お弁当包みとカバンを持った。けれど伊東くんは多美の態度に何も反応しない。座ったまま動かずにいる。

「……どうしたの」

「先輩からもう来るなって言われた」

「――」

 多美は伊東くんをまじまじと見下ろした。伊東くんはかなり落ち込んでいるようだけど、多美には梓の気持ちの方が理解できた。

「梓にだって、見られたくない自分があるんだよ。いつまでも伊東くんの憧れの先輩ではいられないって。わかってあげてくれると嬉しい」

 もう梓は伊東くんに見栄を張れるほどの力を残していない。ただ息をするだけに必死な姿を見せたくない。そう思ったのだろう。そして伊東くんもそれは察している。それでもいいから会いに行きたい気持ち半分、

 ――本当にもう駄目なのかと現実を突きつけられた気持ち半分。

「……なぁ、」

 伊東くんは多美の方を見なかった。

「梶原は大丈夫なのか」

 大丈夫なんかじゃないよ。そんなの平気じゃないに決まっている。大事な人を失うのは二度目だと言っても全然慣れない。慣れるわけがない。

 その言葉を飲み込んで、多美は答えた。

「それでも梓が望んでくれるから」

「そっか……」

 伊東くんは潰れたパックをもっとぎゅっと潰して、捨てられるように折って小さくした。

「なら先輩に伝えて。もう会わないけど、頑張ってくださいって」

 そのまま机につっぷした伊東くんに、これ以上かけられる言葉がなかった。わかった、と答えるしかなかった。





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