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どんっ、どんっ
遠くで重低音が何発もなっている。空にはぱっと光る花火が、間髪いれずに咲いている。
予想通り、梓はベッドから離れることができなかった。
梓はようやく身を起こした。背中に枕を入れて楽になれるようにする。窓を大きく開いてから、椅子ではなく、ベッドの脇に多美は座らせてもらった。お向かいの井口さんも隣の荒井さんも病室にはいなかった。
紺地に朝顔の咲いた多美の浴衣姿を見た二人は、そんなに仲がよかったっけというくらいに、じゃ俺たち屋上に行くから!とあからさまに連れ立って、そそくさと出て行ってしまったのだ。
「気を使わせちゃったかなー」
茶化すように、梓はささやいた。梓から近い左耳に優しく響いた声は、以前よりもひどくはなかった。体調は少し落ち着いているようだった。
「お茶もらってきたよ。飲める?」
「少しなら。いただきます」
上の屋上ではジュースやお茶のペットボトルが振舞われていたので、もらってきたのだ。言わなくても看護師さんが梓の分もと二つくれた。
「上で梓がなんで来ないのかって子供達が騒いでたよ」
「そこの病室のドア、鍵かけとこうぜ」
せっかくのデートなのに突撃するなよ、と笑いながら梓が言うので、多美は大袈裟だと笑った。実は屋上では本当に突撃しそうな小学生を、事情を知るルームメイト二名と看護師が必死で押さえていたのだが、当の本人たちはそこまで気を使われていることを知らない。
「そうそう、うちのお母さんが、梓によろしくって」
「お母さん、お元気?」
梓の問いかけには奥があるように感じた。そういえば誤魔化したままだったが、家の中がごたついていたことを梓は本当に気にしていたのを思い出した。
「今は元気になったよ」
「もう聞いてもいいんだよね?」
「――やっぱり、ごまかされてくれないんだね」
多美は静かにこれまでのことをきちんと順序よく話した。燃え尽きた母が精神的に崩れてしまったこと、薬を飲みながら闘病していること、そして多美の友達の持ってきたコンビニの植物のこと。花が咲いた時には戻ってきたこと。長い話になった。
「14年、実加のためだけに機能していた家族だったからね。今でも正直どう振舞っていいのか、お父さんもお母さんも、私も戸惑ってる。でも形を変えても残る。大丈夫、ちゃんと大切なものは残ったよ」
梓は話をしている最中、ずっと辛そうな顔をしていた。
「俺の母さんは大丈夫かな……」
「きっと、時間をかければちゃんと受け止められるよ。私たちみたいに」
一人息子の発病も、止められなかった死も、いつか分からない先には、おそらくお母さんの人生の一つになって溶け込んでいく。
「多美は、……変な慰めは言わないよね」
大丈夫だよ、とか今更そんなことはいえないのだ。大丈夫なわけがない。けれど時間は残酷に前進し、そして思い出を凌駕する。




