18
「じゃあ、私が夕飯の支度するから、亜季はここのお掃除ね。唯ちゃんは好きにやって」
「りょーかい!」
「あ、多美ちゃんは座ってて。今日は私たちがやったげるから」
多美は絶句した。あっちゃんがまっすぐに、本当にまっすぐそらさずに多美に向き合った。
「きついんだったら、ちゃんと言ってくれればいいのに」
「え?」
「お母さん、お加減が悪いって聞いてたけど、ってことは多美ちゃん、慣れない家事やってるってことでしょう? それに最近は合唱の練習もハードだったから、おうちも荒れてると思ったし、だから今日はお掃除と夕飯の支度をデリバリーなのよ」
「あっちゃん……」
「家事ができないとはいえ、亜季は掃除だけは得意なの。でもあの子捨てるのが得意だから、捨てられたくないものは先にちゃんと避けてね。あと唯ちゃんが風水でいい感じにするってはりきってるけど、あれは……抵抗してもいいから」
まず西に黄色いもの黄色いものとつぶやきながら、持ってきたらしい本を読んでいる。持参の荷物の内容は、風水対策一式だったらしい。多美はあぜんとした。まさかここまでみんなを心配させているとは思っていなかったのだ。
「そんな……みんなごめん」
その一言で、亜季がずかずかと至近距離まできた。そして怒った顔で言った。
「ごめんじゃない。どうせいうならありがとう」
そんなきっぱりした言い方が、多美にはありがたかった。
まだ困惑していたので、多美はもし梓だったらなんて言ってるかなと想像した。みんなに好かれる彼だったら、多美がそんなことをしたら、どうやってくれるだろう。
ああ、そうか。
答えはとても簡単だった。多美はみんなに向かって笑ってみた。
「分かった。みんな、ありがとう」
三人はちょっとそんな多美を見てびっくりしていたが、すぐに弾けるような笑顔に変わった。じゃあはじめるか! という亜季の気合の入った声が、多美への答えになった。
あっちゃんはその腕前を盛大に発揮して、とっても美味しそうな和食を作っていく。多美も料理はできる。あっちゃんの手伝いをしながら、どんどんできていく料理が楽しかった。今日は人数も多い。けれど母はこんなに人がいたら、具合を悪くするんじゃないかと心配になった。みんなもデリバリーが終わったら、ご迷惑だろうからすぐに帰るよと言ってくれていたけれど。
父にメールを送ってみたら、しばらくして返信があった。
『ママに話してみたら、多美のお友達に会ってみたいから、いてもらえますかと言っています』
母がそう思っているのなら、多美には異存ない。料理もみんなの分を含めて、たくさん用意した。居間は亜季と古沢さんで、年末レベルまで掃除してくれたので、今までの疲れていた空気がすっかり拭い取られていた。多美一人だったら、ここまですがすがしくならなかったかもしれない。それがみんなの持ってきてくれた風だった。




