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合唱コンクールはとても天気のいい春の終わりだった。
「うわー、なんか人のを聞いてても、自分らが終わらないと全然落ち着かない~!」
あっちゃんが見た目にも分かるくらいに緊張している。落ち着きなよという多美でさえ、内心はドキドキしている。亜季はどっちかというとわくわくしているし、古沢さんはもともとこういうものに動揺する性質の人ではない。
三組はくじ引きで五番目を引いていた。今は八組が一青苭のハナミズキを歌っている。うーん、いい曲だ。比較的ポップスが多いけれど、やっぱり平井賢は三クラスがダブっていた。ダブるとはっきり上手い下手が分かるので、避けてよかったんだろうな。
「うちくらいじゃない。ロシア民謡」
正統派でコーラスを重ねる練習だったが、ハモるのは基本的にとても楽しかった。
「田島くん、すっごいがんばって指導してくれたもんね」
あっちゃんがそこだけは力説する。三組がどうにかこうにか形になったのは、ひとえに田島総監督のおかげである。千葉さんと亜季の仲介に入ったり、男子をあれだけしごいたりと、彼の大活躍でどんどん上達し、上手くなったと分かってからは、みんな割と歌うことを楽しんでいたような気がする。
「かったるいだけだと思ったのにな。けっこう楽しかった」
「多美が楽しいならよかった。なんかうっとうしいことがあったら、腹から声出すとすっきりするし」
実に亜季らしい、単純明快なストレス発散法かもしれない。
「だって黙ってるから溜まってくるんだぞ。なんでもいいから大声出せば、すっきりもするよ」
「そう?」
「うん、だから多美にはぜひ合唱部に入ってほしい」
スカウトは諦めていないらしい。
「だから興味ないって」
「そんなの歌ってみないとわかんないだろ?」
「トレーニングがやだ。面倒」
「それは一理ある。――でも、多美、あんまり溜め込むなよ。愚痴とかそういうのでもなんでもいいからさ」
多美は思ってもみなかったことを言われて、きょとんとした。
「……亜季がそんな心配してくれるなんて思ってなかった」
「多美は口にしなさすぎ。友達がいのない……」
あっちゃんに言われるなら分かるけど、まさか亜季に言われるとは思わなかった。
「ほれ、笑え」
「ふにぇええ?」
背後からほっぺたをつままれて、うにっと引っ張られた。こんなことを突如するのは古沢さんしかいない。
やっとで離してもらって、ひりひりする頬を撫でていると、千葉さんが呆れた顔で、多美たちを呼びにきた。
「もうあんたたちは何度集合かければいいのよ。はーやーく袖でスタンバって!」
多美たちは慌てて待機コーナーに向かって走りだした。




