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多美の父がその電話を取ったのは、朝の五時というとんでもない時間だった。その話を聞いて、両親は病院にすっ飛んでいった。もちろん多美も学校を休んで、両親と一緒に行った。
病院のICUに実加は眠っていて、沢山のモニターとコードに繋がれていた。
「屋上、ですって……?」
母の声が早朝の廊下に響き渡った。父がどうした、と割り込んで、主治医の高橋先生と話している。多美はこっそり近づいて、耳をそばたてた。すると実加は、一晩屋上で眠っていたらしいことが分かった。
無謀だということは多美でも知っている。心臓疾患は気候の変化に弱い。いくら今が夏の終わりだからといって、そんな無茶なことをして風邪なんかひいてしまったら、それが引き金で死にかねない。そう思っていたら、向こうの方で、もう一組の男女が別の先生に頭を下げていた。どういうことだろうと様子を見ていたら、その人たちは実加のベッドの向こう側に眠っている少年を見つめて、こちらと同じ説明を受けていた。
「自殺、ですか……」
「詳しいことはわかりませんが……二人でそう決めて、外で夜を明かしたんです。このまま死にたかったと、梓くんの方が言ってました。看護師が朝方の見回りでいないのに気づいて見つけたときは、二人とも手を縛って、眠っていたそうです」
多美は先生の説明にぎょっとした。実加の向こう側にいるのが、実加のカレシの「梓くん」らしい。容態は実加のほうが厳しいらしく、梓の方はモニターだけが取り付けられ、規則正しい線を描いている。
梓の噂は聞いていたけれど、どんな人なのかは知らなかった。実加がちょっと照れくさそうに、かっこいいんだよ、と話していたくらいだ。そのカレシは、実加とは違うけれども似たような疾患で、同じ重病人だということくらいしか、多美は知らなかった。




