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「で、それはそうでもないと分かって、俺に言わないなら、きっと家だなと思った。だから何も聞けなかった。……正直、聞きたくないような気がするし」
そこは梓の懸案でもある。梓は多美をいつものパイプ椅子に座らせて、まっすぐに見つめた。
「でも俺が生きてるうちに出来ることがあるならやっておきたい。――おばさんかおじさんに、何があったの」
「――」
多美は口をつぐんだ。梓が何をやっても、どうしたってそれは違うのだ。それは残された側の問題でしかない。梓がそこまで考える必要はない。
「多美」
あの声できつく多美を詰め寄る。
多美はぎゅっと両の手のひらを握り締めた。けれど梓も譲らなかった。
「多美」
多美からとっさに出てきた言葉は、まったく予想もつかないことだった。
「梓はどうして実加を好きになったの」
梓が面食らった顔をして、多美をまじまじと見つめた。多美も自分で言って驚いた。二人きり見つめあったまま黙り込んでしまった。なんで突然こんなことを、と思ったけれど、多美は気づいていた。
――実加の代わりに自分が梓の側にいることを気にしている。
見ていて知っているのは、ただ離れがたく、いつまでも楽しそうに、囁きながら話していた二人の姿。
「なんで、私、梓にこんなに助けてもらっているのかな」
今度こそ泣きたくなった。
「梓、実加に頼まれたんじゃないの? 私のこと。本当は私が梓のことを見送るためじゃなくて、私のことを梓にお願いしたんじゃないの? だってそうじゃないと、梓がなんでこんなに優しいのかわかんないよ。実加と何があったの。実加と何を話して何を決めたの。なんかあるんじゃないかって、疑うよ」
梓は何も言わなかった。多美ももうこれ以上のことを言うことができなかった。多美の運んできた梓の誕生日プレゼントが、妙に大きく、置き場のない困った様子に見えた。
梓は目の前に置かれていたその包みを、ゆっくりとはがした。
中から出てきたのは簡単なプラネタリウムだ。モニターにつながれてずっと身動きできなかった梓が、寝たままでも楽しくいられるようにと思って選んだものだったが、梓の背中を押したのは、間違いなくそれが星空だったからだった。
「ねぇ、多美。車椅子まわして」
梓はそう言った。その固い声に、多美は伏せていた顔をあげた。
「屋上に、いこうか」
今日はそんなに寒くはない。けれど外気にあてて風邪でもひいたら一巻の終わりだ。多美は黙ったまま首を振った。梓はため息をついて立ち上がった。それなら歩いていくだけだ。別にその程度の距離ならば、歩けないわけではない。
「俺と実加ちゃんの、心中現場にさ」
「梓……?」
愕然とした多美は、その言葉を信じられない気持ちで受け止めた。結局誰にも話さなかったあの事件のことが、今出てくるとは思わなかった。
きっと俺のこと、軽蔑すると思うけど。
「聞く? 俺と実加ちゃんの思い出」
梓はつまらなそうにそう吐き捨てた。




