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結局伊東は、梓の誕生日に何を買ったのだろう。
多美は最初から何にするのかを決めていた。けっこう大きな箱と、乾電池を忘れずに抱えて、週末の昼下がりに病室を訪ねた。ベッドに起き上がっていた梓は、大きな荷物を抱えた多美を、驚きながらも迎え入れた。
今日こそは伊東くんのことを聞こうと思った。
梓は多美のクラスに伊東がいることを知っていたのだろうか。その伊東が沢山話した三角関係の一角であることを。梓はけっこう曲者で、平気で嘘もつくし、言わないことは絶対に言わない。知っていることも知らないふりをする。人としては最低と思われかねないこの言動は、長い入院生活の間に彼が身につけた処世術のようなものだ。実加にもそういうところがあった。だから、彼から本当のことを引き出すのは難しい。
やっと安定してモニターもチューブもなくなった梓は、それでも無理はしないようにと厳命されていて、車椅子にもめったに乗らない。今日もベッドで身を起こして、ゆっくりと本を読んでいた。
「あれ、みんなは?」
「一人は亡くなった。一人は売店で、一人は検査中」
そう言われて、思わずみんなのベッド状況を確認する。ちょうど対角線の位置にいた、的場さんというおじさんがいなくなっていた。空のベッドが痛々しい。
「あの人のいびきがなくなって安眠できるかっていうと、できないのが辛いね」
周囲の人がどんどん亡くなっていく状況に、実加も梓も、そして多美でさえ慣れている。次は自分だあの人だということも考えない。ただ惑わないよう前を見るだけ。
「というか、ヒデキのこと、もう知ってるんだよね」
ヒデキ、というのは伊東くんのことだ。伊東くんが早速話したんだろう。自分から切り出す必要がなくなって、少しほっとする。
「梓、知ってたんでしょう? 伊東くんのこと」
梓は、ははあ、と楽しそうに笑った。
「まあね。同じクラスってことはさ、気づいてたよ」
「なんで教えてくれなかったの」
「言いたくなかったから」
梓の答えは簡潔だった。
「……正確にいうと、ヒデキに多美のことを言いたくなかったんだ。ヒデキもなんかやっと腑に落ちたみたいでさ。俺が興味もないはずの、ヒデキのクラスの話を聞きだしまくる理由が多美だって。だから嫌だったんだけどなあ」
「……なんで伊東くんにうちのクラスのこと、聞いてるの?」
「例のごたごたが多美の憂鬱の原因かなと思ったから」
梓は困った顔をしている。そんなにも梓に心配をかけてしまったのだろうか。いつも梓は優しかった。言わなくても通じているように、慰めてくれていたけれど、なんのことはない。ちゃんと出来る範囲で探りはいれていたわけだ。




