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あっちゃんはもちろん、このスカウト事件のことをよく知っている。多美が即答で断ったこともだ。
「やってみてもよかったんじゃない? 部活動、楽しいよ」
「ううん。今はまだ時間がないの」
多美は当たりのおにぎりを噛み締めながら、梓のことを思った。別に梓は合唱部に入ったと言ったら、笑って、面白そうだから話を聞かせてよと言うに決まっている。あの人は多美には一切関わらない。そのために会いに行く時間が減っても、悲しまない。選ぶのはすべて多美の自由だ。
「お母さんの具合、そんなに悪いの?」
「あ、ううん、それは大丈夫だよ」
「なら……放課後いつもまっすぐおうちに帰らないことと関係してる?」
「え?」
「この間も、その前もバス停と違う方向に急いで向かっていくところを見かけたの」
「……ああ、うん、そうだね」
煮え切らない言葉は、人には言いにくいことだから。それくらい梓のことは、この世界から浮き上がっているように見えた。梓と普通の生活を行き来しながら、多美はその不思議な違和感が何なのかを、説明することができない。
あっちゃんは、多美がそのことを言いたくないことを察して、会話を止めた。そして大きな声で、どちらかがゲットしたらしい豚の角煮を奪い合っている二人に、たけのこがどれか教えてあげるから、いい加減やめなさいと笑った。




