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既にSHRとHR、そして月曜の放課後に、合唱コンクールのパート練習が始まっている。どこのクラスもそういうことになっていて、部活動も月曜だけはスタートが遅くなっているらしい。なので、下級生である一年生も、ちゃんと練習できる状況にあった。
ソプラノは亜季、アルトは千葉さんがリーダーになっている。男声は同じ合唱部の田島くんが担当になったらしい。とにかく恰幅のいい彼は、本格的なバリトンの持ち主なので、男声練習が始まったときはびっくりしたくらいだ。
指揮は浅沼くんがまたまた貧乏くじを引いた。押しの弱い委員長は、それでもみんなをまとめているのだから、意外と適任だったのかもしれない。
練習を見てもらって、すぐ亜季と田島くんに呼び出しを受けた。
「多美、悪いことは言わない。合唱部にはいんなさい」
開口一番、亜季がそう言ったのには驚いた。歌った時にみんなが一瞬押し黙ったので、よっぽど浮いていたんだろう、個別練習なのかな、と内心ひやひやしていた。
「俺、ちょーっと、驚いたんだよね。だって未経験者でしょ? 梶原さんて」
田島くんがまんまるい目をくりくりさせてそう言うのも、理解できなかった。
「元々、声がイイってのは、話してるし知ってたけど、歌わせてこれかよって」
「雰囲気があるのが才能だよね。初心者だから、歌い方も丁寧だし癖もついてないし」
「久しぶりにタメ張れる逸材がこんなところにいたとは」
「はは、現状では全然門倉には敵わんだろ。でもいいね」
いったい何の話なんだろう? 多美の分からない顔に、田島くんが苦笑した。
「梶原さん、状況分かってない? これはマジメなスカウトの話だよ」
「スカウト?」
「そう。実際びっくりだね。とても上手」
うちの合唱部はとても強い。全国大会をめざしている、部員数が百名を越える大所帯だ。内容も文化部とは思えないくらいにトレーニングをしているし、とにかく練習がすごい。あっちゃんがマネージャーの一人として入っているのも、それだけハードだからということでもある。
「でも今年だって沢山部員入ったんだよね?」
「入ったけど、バランスが悪いってのは一目瞭然」
先輩からも、ソプラノが歌える人材が友達だったら、他の部からでもかっさらってこいと言われているくらいに偏っているそうだ。
勉強もちょっとできるくらい。運動も人並みに。趣味は特になくて、特技は入院患者のお守りという多美が、こんなに熱烈に求められるのは、これまでに経験したことがなかった。




