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放課後は一人きりだ。けれどこれくらいがちょうどいい。
確かに亜季たちと一緒にいるのは楽しい。けれど元々、友達と沢山いるということに慣れていなかった。
昔から実加がいたから、習い事もできなかったし、昔の実加はしょっちゅうICUに入るような状態で、多美もいつも病院に駆けつけていた。だから友達の家に遊びにいっても落ち着かないし、結局は家にいて、一人でただ、鳴ってはいけない電話を待っていた。
よく分からないけれど、物心ついたときから、実加のことは必ず看取る、そう決めていたような気がする。だって私がお姉さんだから。実加と違って健康に普通に生まれた姉妹だから。それは義務ではないのに、いつの間にか多美を縛っていた。
実際は高校受験の当日の朝に容態が急変して、試験中にあっさりといなくなってしまったのだけれども。
――実加は、本当はどんな風に感じて、どんな風に生きてきたんだろう。
たった十四年の人生を、実加はどんな風に思っていたんだろう。
多美が今でも思い出せるのは、多美が来たときに見せる、嫌だなと嬉しいなが絶妙にブレンドされた微笑。好きでもないけれど嫌うことも出来ない。人としてまったく違うもの同士なのに、絶対に切れることのないゆるぎない関係。そういうものだった。それだから、多美は実加を自分の妹だったと、強く感じることがある。
自分から一番近い他人。自分から一番遠い肉親。
実加は幼い頃から病気に育てられてきた人特有の、早くに大人になってしまったところがあった。実加の方が、ずっと年上みたいに感じることも多々あった。
そしてうちの家族はみんな、そんな実加を中心にして生きてきた。チーム実加は、だれ一人後悔はしていない。その戦いは、必ず来る『負け』をどれだけひき伸ばせるかという戦いだったからだ。着地点が今だったというだけで、残念ながら負けること自体は決められていたことだった。
母がおかしくなって、梓と会っているうちに、考えるようになったことはたくさんある。自分の妹の知らなかったこと。知っていたこと。
自分にとって、実加はなんだったのだろうか。
遠くで部活をしている掛け声が聞こえる。多美は静かに、誰もいない教室の机につっぷしてみた。
――なんか、本当に疲れちゃった……
母が言うその言葉が、静かに自分にも降り積もる。
私も疲れたのかな。
そんなことはない。多美は何もしていない。むしろしているといえば今なのだろう。実加の遺書の通りに梓と会う。実加を看取ることが出来なかった代わりに、彼を看取ることになる。
なんだかおかしい気分がした。多美は生きているし、友達も先生もみんな生きている。とっても普通に。
けれどそれと同時に、私の周りにはこんなにも簡単に死はある。
人はあっさりと死んでいくという現実を、それは歳の順というルールではないという世界をずっと見てきた。実加と一緒に、実加の友達を何人も見送ってきた。みんなあっという間に、時々じっとねばって、それでも多美より幼い歳で亡くなっていった。
ガラガラと、扉の開く音がした。多美は伏せたままぼんやりと、そちらに視線を向ける。入ってきたのはサッカー部のユニホームだった。




