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君に告ぐ  作者: ミズハラハヅミ
第一部 あたらしい日々
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 高校生活は当たり障りもなくただ淡々と過ぎていく。亜季のおかげで今のところスムーズに動き出してはいるが、それでもやっぱりやりづらいところがあった。亜季たちは小学校からの付き合いで、新参者の私にはやっぱり壁を感じたからだ。もちろん二人のことは嫌いではないんだけれど、距離があるのは仕方がない。二人は早速合唱部に入部したらしく、放課後はすぐにいなくなる。だから私はなんとなくまだ一人きりだ。

 だから放課後はやっぱり一人で、いつもの通りに病院への道を行く。

 そしてやっぱり一人きりの梓に会いに行って、今日会った出来事を丁寧に語るのが日課になった。

「その数学のセンセ、三年前に生徒にヅラを指摘されてからカミングアウトしたらしいって、おっかしいなあ! 現場見てみたくなるよな」

「テレビの受験対策セミナーに出てるときだけ、未だにヅラらしいけど。往生際が悪いってみんなに評判らしいよ」

「だよな! もういっそハゲを極めればいいのにな!」

 梓は話下手な多美から話を引き出すのが、本当に上手い。彼は実加と同じように外の話に飢えていて、どんな話でも楽しそうに聞いていた。そしてそれを羨むような様子は一切見せなかった。

 春休みから、高校進学の準備をしながら合間を縫って、梓の元へ訪ねるようになったが、話をすればするほど、梓のとても気さくで、なんというかあんまり壁のない人だというのを感じていた。人懐っこいというのか、そんなところがあるから、病院内にも知り合いがうじゃうじゃいた。具合のいい日はよく車椅子でいろんなところに顔を出していて、梓はどこででも好かれていた。特に実加の件があって、みんな梓には同情的だったが、梓はそんなものでさえも気にしていなかった。だからこそ、すごくのっぺらぼうな気がした。

 何にも感じてなくて、何でも諦めている、そんな匂いがした。

 生きているのに死んでいる、それが多美にとっての樫井梓という人だった。

 最初は自己紹介から。それから実加の話をした。私たちの共通項は実加しかなかったからだ。けれどずっと病院暮らしが長く、一緒にいた時間がもともと短いので、実加のことをよく知らなかったということが、はっきりとしただけだった。実加のことは梓から教えてもらうことの方が多かった。

 彼は饒舌だった。会話がとても上手で、複雑なことも聞いていてすっと理解できる、そんなきちんと組み立ててある、いい話し方をした。だから梓の話を聞いているのはとても心地がよかった。

「多美はあんまり自分の話をしないんだね」

 梓にその素敵な声で「多美」と名前で呼ばれると、むしょうに恥ずかしかった。妹の恋人なのに、少しだけドキドキした。

「あんまりうまく話すの得意じゃないから」

「そう。俺は聞きたいけどな。学校がどんな感じだったとか、そういう外の話」

 梓は入院生活のせいで、中学の出席日数はかなりギリギリだったらしい。義務教育だったし、卒業もかなりオマケされたんじゃない? と笑っていたけれど、それくらい学校というものから遠ざかっているのだった。

「高校のこと、下手でもいいから、話してな」

 梓にそう言われたら、断ることは難しい。




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