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魔族(あね)と俺の共同戦線  作者: 恵/.
第四話 欧州・先史文明の英霊編
59/60

終結


 ……蝶香たちは。


「……それで、あなたはどうするの? このまま「ガーディアン」に協力し続けるのかしら?」

「そ、それは……」

 一通りの情報を得た後、蝶香は唄羽にそう尋ねた。……魔族を守るという理念はあるものの、「ガーディアン」そのものは決して健全な組織というわけではない。寧ろ、彼女自身も、その暗部を嫌というほど見せられて、心が揺らいでいるのだ。このまま「ガーディアン」に加担し続けていいのか、と。

「それならそれで別にいいけど。でも、決して楽な道ではないわよ。「ガーディアン」が魔族を隔離するのは、別に愛護精神からってわけじゃない。人間社会から隔絶したいっていう点では「キラー」と同じなのよ。それが、抹殺という手段を取るか、隔離するかの違いしかないわ」

「……」

 答えを返せない唄羽に、蝶香は冷たくそう言い放った。そのせいか、唄羽は沈黙して俯いてしまう。

「……でも。もしも「ガーディアン」に嫌気が差したら、私たちのところに来るといいわ。いつでも大歓迎よ」

「あ……」

 だが、蝶香は優しく微笑みながら、そう言った。……今は迷っていてもいい。決心がついたらいつでも来ていい。そう言われて、唄羽も少しだけ気が楽になった。

「さてと……夜朗はいい加減、終わらせたのかしら?」

 唄羽への勧誘はそれで終わり、蝶香は夜朗の身を案じることにした。と言っても、別に彼のことを心配してはいない。夜朗は強いし、一対一で負けることなどあり得ない。そう確信しているのだ。



 ……では、その夜朗は。


「はぁっ……!」

「……っ!」

 夜朗の刀が、心の腕に生えた刃を抉り出した。……これで三本目。ここまで、夜朗は心の刃を的確に抉っていた。あくまで根元を抉るだけで、深い傷は残していないが、それが夜朗の技量を示している。殺し合いをしているこの状況で相手を気遣うだけの余地があるのだ。対峙する心の心理的プレッシャーは、決して小さくない。

「……」

 そんな中、心は何を思ったか、一度大きく後退した。そしてそのままバックステップを続け、五十メートル近い距離を取る。……その直後、心の全身から刃が消え失せた。砂の城が崩れるようにバラバラになり、見えない粒子になって散ったのだ。

「……刃を自分から消すってことは、空気抵抗を減らして突撃する気か? 或いは、距離を詰めたところへカウンターとか?」

 心の行動に、夜朗はそんな仮説を立てる。この距離ならば、普通であれば移動に六秒以上掛かる。だが、心のスピードならこの距離でも一瞬で詰めてくるだろう。まして、自分から近づけば相対速度は更に上がる。擦れ違い様に切り掛かられたら、さすがに防げないかもしれない。

「……だったら、あれしかないか」

 夜朗は溜息混じりに、左手の刀から手を離した。すると、手を離れた刀と、彼の腕を戒めていた鎖が融け、蒸発した。そして残ったのは、元々あった右手の刀だけだ。……態々武器を減らして、どうするのか?

「……ふぅ」

 そして夜朗は、刀を鞘に仕舞った。……だが、これは別に戦意喪失したわけではない。元来、夜朗が得意とするのは、二刀流ではなく居合い術だ。つまり夜朗は、居合い切りで心と切り結ぼうとしているのだろう。

「……」

「……」

 互いに睨み合い、沈黙が流れる。この状態では、心も自分から動かなければならないから、迂闊に攻撃できないのだ。勝負が始まれば、決着は一瞬だろう。となれば、後はどう刀を抜くか、ということになる。……心は夜朗を殺せない。故に、首などの急所を狙うことはないだろう。であるならば、向こうの狙いは腹か脚か……しかし、擦れ違い様では下半身を狙いにくいだろう。体勢を低くすれば、鎌ならばいけるだろうが、身長が低くない心では腹のほうが狙いやすい。夜朗はそう踏んで、刀の軌道を決めた。

「……っ!」

「……はっ!」

 そして、刹那の間を置いて、心が駆け出した。その動きはやはり神速で、夜朗の目も捉えることは出来ない。……だが、タイミングさえ分かれば、後はそのまま刀を抜くだけだ。

「「……っ!」」

 そして、心の鎌は、夜朗が予想したところへ来た。となれば必然、夜朗の刀は、吸い込まれるように心の鎌へと向かい―――そして、相手の力も利用して、彼女の鎌を両断した。

「……!?」

 一瞬の攻防の後、心の鎌が砕けて、それで全てが終わった。心は驚愕し、破壊された鎌の柄を落としてしまう。―――その表情は、彼女が見せた、初めての感情だった。

「……ふぅ。どうにか、うまく行ったか」

 対する夜朗は、安堵の息を漏らして、刀を下ろした。……なんということはない。心は今まで、己が速さと刃の切れ味を武器に戦っていたのだ。だが、夜朗にとっては、動きが読めるのならば対応は難しくなかった。心の技量が未熟であったための敗北というだけなのだ。

「……それで、まだ続けるのか? これ以上続けても無駄だと思うんだが」

「……」

 そして夜朗は振り返り、未だに呆然としている心にそう問い掛けた。だが、心はそれに答えない。まだ驚愕から抜け出せないでいるのだろう。

「お前さんじゃあ、俺には勝てない。だから、もうこんなことはしないでくれよ。……俺だって、あまり手荒な真似はしたくないんだ」

「……っ」

 心に近づきながら、刀を鞘に納める夜朗。これで戦いは終わった。そう言いたげな態度に、ようやく正気に戻った心は、怒りを覚えた。……彼女自身、自分にそんな感情があるとの自覚があまりなかった。ましてや、相手の言葉が気に障ることがあっても、そんな感情を抱くことなどまずないのに。そんな自分の変化に驚きながらも、心は立ち上がった。

「……あなたは、何のために戦うの?」

 そして、夜朗に対してそんなことを尋ねた。……師の言葉だけを頼りに生きている心には、彼がどういう信念で生き、戦っているのか、気になってしょうがないのだろう。

「何のため、か……そうだな。大切な人のため、とでも言っておくか」

「……大切な人」

 夜朗の返答に、心は、師の顔を思い浮かべた。……お互い、同じ思いの元で戦っていた。なのに、どうして自分が負けたのか。ただ運が悪かった、なんてことはあり得ない。運や相性で片付けられるほど、二人の差は小さくなかったのだ。であれば、その違いとは何か?

「……」

 その答えが見えず、心は悔しそうな表情を見せると、その姿を消した。自慢の速度をもって、この場から退却したのだろう。

「……ったく。どうにか追い払えたか」

 心が逃げたのを確信し、夜朗は溜息混じりにそう呟いた。

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